関西学院大学人間福祉学部とベネッセスタイルケアは、シニアビジネスの新たなサービス価値や事業を提案できる人材の育成を目指し、2018年4月に寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』を開講。取り組みの現場からのレポートです。

今の大学生が高齢者世代になる2065年には、日本の高齢化率は約40%に上ると推定されています(平成29年版高齢社会白書)。すでに高齢者を取り巻く環境は、社会保障財政や介護人材不足など課題が山積み。若い世代ほど高齢者を取り巻く現状を理解し、自分ごととしてこれからの社会のあり方を考え、アクションを起こす力が必要になるのではないでしょうか。
関西学院大学人間福祉学部(関学大)とベネッセスタイルケア(ベネッセ)は、そんな時代環境をとらえた寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』を開講し、シニアビジネスの新たなサービス価値や事業を提案できる人材の育成を目指しています。社会課題への取り組みともいえる本講座のビジョンと、自らの意志で受講する学生たちのシニアビジネスへの意識について、3回に渡り取り上げます。

現場で蓄積した20年のノウハウを活用。シニアビジネスのプロが、学生のユニークな発想を引き出す

シニアビジネスの最前線にある企業が目指す、大学講座のねらいとは。カリキュラムの特徴と開設に至った背景について、企画を主導したベネッセスタイルケアの安達覚史に聞きます。

―― 全14回に渡るカリキュラムの概要、とくに工夫した点を教えてください。

安達 関西学院大学の寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』は、人間福祉学部の3、4年生を対象としています。すべての講義で、ベネッセスタイルケアの経営部門や各専門領域の社員が講師を担当します。
講義内容は日本のシニアビジネスの課題、介護事業者の収支、介護保険、現場のサービス、高齢者の暮らしと環境、シニア・マーケティング戦略、リーダーの資質などですが、教室で講義を聞くだけではなく、ベネッセスタイルケアが運営する有料老人ホームに出向き、施設内を見学してもらいました。さらに施設を見て特徴的だと思ったこと・もっとこうしたらと考えることを学生同士で語り合い、深めていくワークショップも実施し、講座の最終回には、「10年後のシニアビジネス」を提案・プレゼンテ―ションしてもらう予定です。

―― シニアビジネスの現場について幅広い視点で、かつ、ビジネスの最前線に立つ企業人から直接学べるわけですね。

安達 それだけではありません。カリキュラムの最大の特徴は、20年に渡るベネッセの老人ホーム運営の実践ノウハウが活用されていることです。たとえば老人ホームの見学後のワークショップでは、自社で独自に開発した「ベネッセメソッド」のひとつ、『その方らしさに寄りそった環境づくりの手掛かり』を教材として使っています。これは、ベネッセの300を超えるホームにある、ご入居者が集まる空間、人気のあるスペースや環境の603個の実例を集め、その成功した理由を高齢者の住まいにおける「居心地のいい」環境をつくる65のコツとしてパターン化した書籍とカードです。

―― 企業が大学生と共に、日本のシニアビジネスを考えようという思いの背景は?

安達 5人に2人が高齢者という社会がやってくるなか、その社会で生き抜く若者の皆さんに、高齢化社会の実態とそこで求められるシニアビジネスのあり方を考えてもらいたいというのが一番のねらいです。そのうえで、この講座で重視しているのは、日本の高齢化社会のあり方を考え、新しいシニアビジネスを創出するリーダー的な人材の育成です。

―― このような講座は、今回が初めてですか?

安達 ここまでの内容を盛り込むのは初めてですが以前にも、いろいろな大学で介護現場の課題をテーマに、その解決を考えるPBL(課題解決型学習、Problem-Based Learning)型講義は行っていました。
学生と「新しいシニアサービス」について話し合っていると、私たちが考えつかないようなアイデアが出てきます。若者らしいユニークなものでは、最近話題の「シェアハウス」の発想を生かしたケアハウスなどもありましたし、学生がつくった高齢者向け生活用品のプランで、メーカーが興味を持ち、商品化寸前まで進んだケースもありました。講義を通して介護の世界の裾野の広さにビジネスとしての可能性を見いだし、実際にベネッセスタイルケアに入社した学生も複数いて、管理職として活躍している者もいます。

「究極のサービス業」を通して「よく生きる」人生を考える

―― 介護などをはじめ高齢化社会の課題は、一般的にはネガティブなイメージもあるようです。安達さんにとってシニア介護事業とはどのようなものですか?

安達 私たちが運営する有料老人ホームの入居者には、伴侶を失う、病気を抱えているなど、孤独や不安、葛藤と向き合っている方も少なくありません。入居者のご家族には、本当は自分が介護しなければならないのにという思いを持ちながら入居をお決めになる方もいます。お一人おひとりの心の奥にある様々な思いや人生などを知った上でサービスする仕事は、ほかにはありません。だから私は、介護は「究極のサービス業」だと考えています。ベネッセスタイルケアの理念は、「その方らしさに、深く寄りそう。」です。学生たちには、「この理念は絶対に外せないものだ」と話しています。

私は28歳までは模擬試験など教育領域の営業職を務めていました。当時は、介護保険制度ができ、介護・福祉事業への民間の参入が始まったばかりで、私自身もシニアビジネスを「新しいビジネスチャンス」としてとらえていました。しかし、いざ介護の現場に入ってみると、「数字」以上に、入居者の方々やそのご家族の笑顔に、そして、介護現場を支える若いスタッフが成長していく姿に、自分が喜びを感じていることに気づきました。シニアビジネスに携わるようになって、生きる喜びとは何か、人との真のつながりとはどのようなものかをこれまで以上に考えるようになったと思います。そんな魅力がシニアビジネスにはあります。

―― 大学との連携、学生と共に考えるシニアビジネスについて今後取り組んでみたいことは?

安達 高齢化社会という大きな課題に向き合う企業として、これからもさまざまな大学と一緒に新しいチャレンジをしてみたいですね。例えば、キャンパス内でグループホームをつくって、学生や卒業生が運営するのもいいですね。どんな施設がよいか、学生と一緒に考えてみたいですね。
学生ならではの視点から生まれる発想は、企業としても大切に育てたいです。

安達覚史(あだち・さとし)
株式会社ベネッセスタイルケア 西日本・東海エリア事業本部長 執行役員

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