関西学院大学人間福祉学部とベネッセスタイルケアは、シニアビジネスの新たなサービス価値や事業を提案できる人材の育成を目指し、2018年4月に寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』を開講。取り組みの現場からのレポートです。

関西学院大学とベネッセスタイルケアが開設した寄附講座『日本のシニアビジネスの課題と展望』は、シニアビジネスの新たなサービス価値や事業を提案できる人材の育成を目指しています。ビジネスの最前線に立つ企業人が大学生に、「これからの社会」「これからのシニア介護」のあり方を問いかける場とも言えます。では受講する学生たちはここで何を吸収し、何を感じているのでしょうか。講座中盤に行ったワークショップの様子と、受講学生の声を取材しました。

自分たちの提案を企業の人に直接伝える。実社会とつながる体験

第7回目の授業となるワークショップは、前週訪問したベネッセスタイルケア運営の老人ホームでの発見・気づきをもとに行われました。
少人数に分かれたグループワークは、現場を見て気がついたこと、感じたことを整理し、もっとこうなったら…という提案にまで深めることがゴールです。議論が散漫にならず共通の軸で考えていくために、同社が開発した『その方らしさに寄りそった環境づくりの手掛かり』の書かれたカードを使います。

カードは「パターン・ランゲージ」というフレームワークを活用し、「ベネッセメソッド01」として開発。同社の老人ホームにある「居心地のいい」空間の実例を収集分析し、「ここちよさ」の成功パターンを共通言語化した。

65枚のカードには1つずつ、ホームでの環境づくりのコツが書かれています。それをメンバーで見ながら、ホームに「実際にあったもの」「もう少し(工夫の)あったほうがよいもの」をディスカッションしていきます。
「リビングには大きなテーブルがあったよね。でも、十分に活用できていなかったような気がする。どうしてだろう…」
「このカードには、入居者が自分の目的や気分に沿って選べる環境づくり、『お気に入りを見つけて欲しい』って書いてある。家具揃えにもっと多様性があってもよいのかも…」
など、心地よい場所になるためのアイデアが次々に出てきます。

煮詰まった場面では現場のプロが質問を投げかけたり、情報のフォローも。制限時間いっぱいまで活発な議論が続きました。最後のグループ発表では、彼らが注目したホームの特徴と、「井戸端会議ができるようなあたたかな空間があるともっといい」「明るすぎない適度な光だまりをつくった方が人が集まりやすいのでは」など居心地を追求する具体的な提案が出されました。
同席したホーム長からは、「みなさんの目を通すことで、自分たちの課題が今までよりも明確になった」「きょうの話をホームに持ち帰り改善したい」など感謝のコメントが。企業側にとっても手ごたえある授業になったようです。

学生のネガティブな先入観を変えるシニアビジネスのケーススタディ

企業と直接つながるユニークな授業を通して、学生たちは何を感じ取っているでしょうか。その問題意識と、シニアビジネスへの印象の変化を聞きました。

宮川真奈さん 人間福祉学部3年

介護に対しては「低賃金」「長時間労働」といったネガティブなイメージを抱きがちです。この講座では実際に有料老人ホームを経営しているベネッセスタイルケアが、どのような思いでシニアビジネスに取り組まれているかを聞きたかったのです。スタッフの方が働き続けられる環境づくりについても知りたいです。
施設での生活の様子なども映像で見ましたが、印象に残っているのは、言葉も表情もほとんどない認知症の方の「思い出の曲」を探すために、スタッフがたいへんな努力をされたという話。入居者の笑顔のために、ここまでスタッフが寄りそうことに驚きました。学科で学ぶ理論や理想を実際にシニアビジネスで実現していることに、介護へのイメージも前向きなものに変わりました。

西川侑希さん 人間福祉学部4年

施設の入居者の方やそのご家族の評価は、対人的なサポートだけではなく、施設を設計する段階から居住空間としてどのような工夫がされているか、そこも満足度を左右すると知り、介護に関する視野を広げることができました。
福祉を知るというのは、今の日本を知ることだと思います。みんなが知るべきことなのに、実は多くの人が現状を理解していないことに疑問を感じます。身近に知る機会をもっと増やせば、祖父母や両親のケアについても早いうちから考え、ひいては介護予防につながったりするのではないでしょうか。私たち若い世代が、これからの未来を支えていくという視点を持って学ぶことが必要だと思います。

浅井亮成さん 人間福祉学部4年

シニアビジネスって何を指すのだろう? という興味から受講しました。介護の現場は、そこで働く人にとっても大変な場所で、また利用者の方にとってはできれば入りたくない特別な場所では・・・というイメージを持っていました。けれども、ベネッセスタイルケアのホームがどういう理念とメソッドで運営されているのかを知り、老人ホームは人生の同一線上にあるごく自然な場所であり、そこで過ごすようになっても、誰かのために、何かのために生きたいという思いは変わらないのだな、とわかりました。企業の方々と学ぶことは、私たちにとって大学での学びを社会とつなぐことのできる良いチャンスだと思います。

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