介護施設の運営などを行うベネッセスタイルケアは、ご入居者様の日々の記録をデジタル管理する「サービスナビゲーションシステム」を2017年から導入。担当の介護スタッフがパソコンやスマートフォンで入力した情報を関係者で共有できるよう、継続して蓄積しています。そこから得た気づきは、ご入居者様の生活の質向上につながるサービス提案に反映されるなど、介護現場に新しい動きを生み出しています。

デジタル化でめざしたのは、事業理念と社員の「行動」をつなぐ仕組みづくり

以前の介護現場はフロアに記録用紙を保管し、担当者がご入居者様の食事の量など生活の様子を書き込み、さらに共有のための転記をするといったものでした。介護領域でデジタル化の動きが始まるなか、同社では、「その方らしさに、深く寄りそう。」という事業理念の具現化のため、介護に関わる多職種のメンバーがスムーズに情報を共有し、お一人おひとりの生活の質向上にもっと取り組めるようにと、独自のデジタル化・システム開発に着手しました。それが、2017年に完成した「サービスナビゲーションシステム(以下、サーナビ)」です。

ベネッセスタイルケアは、ベネッセのグループ会社とも連携して「サーナビ」を独自開発。現在は330拠点以上のすべての介護ホームに導入している。(2021年2月時点)

同社の介護付き有料老人ホーム「グランダ大森山王」(東京都大田区)の松尾ホーム長は、導入当時をこう振り返ります。

 「紙に書くのが当たり前だったことと、パソコンに慣れていないスタッフもいたので、最初は大変でした。色々な機能を覚えなければならないため、一人ひとりに根気よく指導を続けました。ただ、やっていくうちに情報がすぐ共有できたり記録が見やすくなったりと、デジタル化で改善されることは多く、ご入居者様と関わる時間も増えると気づいた頃から、みんな前向きに取り組むようになりました。」

「サーナビ」の画面サンプル。マークを用いるなど、ひと目でわかる工夫が盛り込まれている。

「サーナビ」を活用し、気づき・考え・共有して、行動する

「グランダ大森山王」はデジタル化で生み出した新たな時間を、リハビリを兼ねて屋上で気分転換、中庭を散歩と、ご入居者様とのコミュニケーションに充てるようになったとか。ちょっとした時間でも積み重ねていくことで、「本当はこう考えていらっしゃる」「こんなことに挑戦したいのでは」など、色々なことに気づけるといいます。もちろんその情報も「サーナビ」に記録し、生活プランの検討に活かします。

 「ある男性のご入居者様は、お独りで過ごすのがお好きでした。ただ、次第に元気がなくなる様子に気づいたスタッフが、ホームの朗読クラブにお誘いしてみたのです。話が弾むか不安もありましたが、本の話題で盛り上がり、好感触。何回か参加されるうちに発表会の代表になるほどに。楽しみを見つけて元気を取り戻してくださいました。これは、日頃のご様子を見ていた担当スタッフが読書好きだと気づいていたことと、朗読クラブでの出来事をその場に留めず『サーナビ』で共有し、この方のケアに関わるメンバーで話し合って生活プランに組み込み、サポートを継続した結果だと思います。」(松尾ホーム長)

 この「気づき・考え・共有して、行動する。新しい生活提案を生み出す」というプロセスは、ケアサービスを提供する側の意識づけにもなり、仕事のやりがいにつながるといいます。

「サーナビ」に蓄積される情報をもとに、その方らしく暮らしていただくためのプランを検討する。※2019年7月撮影

デジタル化しても、お一人おひとりに深く寄りそう気持ちは揺るがない

松尾ホーム長は、「システムはどんどん改善されるので、スタッフが使いこなせるよう育成することが重要です。ただ私たちは、デジタル化は手段だと思っています。お一人おひとりにもっと深く寄りそえるか、生活の質向上に役立つのかといった判断軸をぶらさずに向き合っていきたいと思います。」

「サーナビ」の情報は、日々のケアに活用するだけでなく、全国にいる同社の経験・知見豊富なスタッフによる分析で、転倒などの防止策共有や、専門性の高い介護人財を育成する研修に反映されたりします。理念と社員の行動をつなぐことをめざして始まったベネッセスタイルケアのデジタル化は、これからも進化を続けます。

情報提供

ベネッセスタイルケア https://www.benesse-style-care.co.jp/
「グランダ大森山王」

取材協力

松尾 もも

松尾 もも
就職活動でベネッセスタイルケアの「その方らしさに、深く寄りそう。」という理念と、それを具現化する先輩社員の姿に共鳴して入社。同ホームで介護業務の経験を積み、現在はホーム長。