病気を抱え、治療が長期にわたる子どもたちが学ぶ院内学級。その学びの機会を広げる支援をするために、公益財団法人ベネッセこども基金が東京都内の特別支援学校と連携して開発に取り組む、ICTを活用した学びのモデルをご紹介します。

ICT活用で学習・コミュニケーションをサポート

このプロジェクトは、院内学級で学ぶ子どもたちの学習・コミュニケーションをサポートすることを目的に、2015年6月に都立光明学園のそよ風分教室からスタートしました。株式会社オリィ研究所の“分身ロボット”OriHimeを使い、入院中で病室から出られない子どもと、院内学級の先生や友人などをつなぎ、学びやコミュニケーションをサポートする活動に取り組んでいます。
2016年度より、東京都内の特別支援学校4校(※1)にプロジェクトを広げ、活用事例を積み重ねながら、有効な学びのモデル創出をめざしています。

※1 院内学級プロジェクト参画校:都立北特別支援学校(東京大学医学部附属病院内こだま分教室)/都立小平特別支援学校(国立精神・神経医療研究センター内武蔵分教室など)/都立光明学園(国立成育医療研究センター内そよ風分教室など)/都立墨東特別支援学校(国立がん研究センター中央病院内いるか分教室など)

“分身ロボット”OriHime のしくみ

院内学級の教室などに置いたOriHimeを、インターネットを通じて病室のベッドサイドなどからタブレットで遠隔操作。カメラの視界を動かして自由に周りを見たり手振りなどのジェスチャーを加えて会話をしたり、まるで自分の分身がそこにいるかのように、コミュニケーションを取ることができます。

OriHime を使った学び支援の方法にはたくさんの可能性があり、参画する各校で様々な試みがされています。

【活用の事例】卒業式に向けてOriHimeで前籍校へ“登校”

治療が長期にわたる場合、病気を抱える子どもの入院先に院内学級があれば、その院内学級を設置している学校に、籍を移して通うことになります。治療が終わり退院することになれば、入院前に通っていた学校に、籍を戻すことができます。

入院に伴い2学期から都内の特別支援学校の訪問学級に通っていた小学6年生のAくんは、退院後の3月に控えた卒業式に、前籍校で出席することになりました。しかし、長期間前籍校に通っていなかったため、Aくんは「自分はクラスメートのみんなに忘れられてしまっているのでは」と、登校することに不安を感じていました。訪問学級の先生方はAくんの不安を和らげられる方法として、「Aくんの代わりにOriHimeに前の学校に行ってもらっては?」という提案をしました。Aくんは「やってみる!」ととても前向きになり、卒業式までの間、前籍校の授業に病室からOriHimeで参加して、登校に向けた練習をすることにしました。
最初は少し緊張している様子だったAくんも、次第に慣れた様子で意欲的に授業を受けるようになりました。クラスメートたちも最初はOriHimeに驚き、「本当にAくんなの?」などと興味津々でしたが、授業中は、まるで本当にAくんがそこに着席しているかのように全員落ち着いて授業を受けていました。

“分身ロボット”OriHime /写真提供:オリィ研究所

休み時間になると、子どもたちはかわるがわるOriHimeを通してAくんに話しかけ、「手をあげて」「こっち向いて」などのリクエストをしながらAくんとのやりとりを楽しんでいました。一人のクラスメートは、放課後Aくんに何かを言いかけましたが、「やっぱり今度学校で話すよ」と言い、お互いに直接会えることをとても楽しみにする様子も見られました。
後日、Aくんのお母さまから訪問学級の先生のもとに、「卒業式の登校に後ろ向きだったけれど、OriHimeのおかげで学校に行くモチベーションが上がったみたいです」というお礼の言葉が届きました。前籍校の先生方の多大なる理解と協力により、OriHimeを通じた友人とのコミュニケーションが実現し、Aくんが登校に前向きになれたことが、大きな成果の一つとなりました。

子どもの学びの環境づくりを様々なアプローチで!

子どもたちの知りたい・学びたいという気持ち、友達とつながりたいという気持ちは、どんな環境にいても大切に持ち続けてほしいものです。
企画当初から関わるベネッセこども基金事務局の岩永華奈氏は、こう語ります。
「実際にOriHimeを体験してみたり、使用しているところを見たりすると、OriHimeが“分身ロボット”である意義がとてもよくわかります。本プロジェクトが病気を抱える子どもたちの学び支援のモデルとして広がっていくために、より多くの方々にこの取り組みを知っていただきたいと思っています。『子どもにとってよい学び・体験を』という想いを大切に、さまざまな方々のご理解やご協力を得ながら、さらに取り組みを進めます。」

ICTの活用は一例ですが、子どもたちの学びの環境を支援するためにできることを、枠にとらわれず様々なアプローチから考え続けることが大事なのかもしれません。

(プロジェクト活動に関する記載は、ベネッセこども基金「アニュアルレポート2016年度」に掲載された特集をもとに作成したものです。)

関連サイト

  • 「アニュアルレポート2016年度」特集3 院内学級の子どもたちの学び支援プロジェクト
    https://benesse-kodomokikin.or.jp/doc/ar/annualreport2016_3.pdf
  • 公益財団法人ベネッセこども基金
    https://benesse-kodomokikin.or.jp/

    株式会社ベネッセホールディングスは、CSR活動の一環として未来を担う子どもたちの学び支援に取り組み、公益財団法人ベネッセこども基金の活動を支援しています。