2021.2.25
日本語「で」何をしたいのかが大事。ことばの教育を基盤にしたラーンズの多文化共生事業
国内外のグローバル化が進むなか、日本で暮らす外国人には、自分の生活に必要な日本語をすぐに理解したいという、切実な思いがあります。ベネッセグループのラーンズでは、在住外国人も母国と同じように日本で暮らしてもらえたらと、「ことばの教育」を基盤にした多文化共生事業に取り組んでいます。同社に、事業開発の経緯とそこに込める思いを聞きました。
なぜ日本語を学びたいのか。人それぞれの目的を理解することが大事
ラーンズは、「まなびを支援するなかで、お客様の想いをカタチにする」という理念のもと、2011年に日本で暮らす外国人への多文化共生事業を立ち上げました。開発を推進してきた担当社員・石井丈司は、こう語ります。
「新たな商品・サービスを検討する社内プロジェクトで、これから増えると思われる日本在住の外国人を対象にした事業アイデアが生まれました。偶然なのですが、その頃私は外国人の英語講師が多く暮らすマンションに住んでいました。近所づきあいの輪が広がり仲良くなるうちに、役所の手続きや生活に必要な日本語がわからず困っている外国人がたくさんいることを知りました。
ベネッセグループには「Benesse(よく生きる)」という考え方があります。家族や周りの人が幸せによく生きられるようにしたい、その中に、日本で暮らす外国人の方がいてもいいんじゃないか。そんな思いに突き動かされました。」(石井)
日本での生活をサポートする商品「いろはにっぽん生活応援パック」や、地域の防災マップ、情報ガイドなどの翻訳版を出すなど順調な滑り出しでしたが、次第に、商品・サービスを届けるだけで外国人の方の幸せにつながるのだろうかと、迷いが生まれたといいます。
「模索するなかで、日本語教育の第一線の方々にたくさん話を聞きました。なかでも心に刺さったのが、『日本語“を”教えることを目的にするとうまくいかないよ。その在住外国人は日本語“で”何をしたいのか。そこを理解することがまず大事』という言葉です。住む地域や立場により、言葉を必要とする目的・悩みは異なります。それぞれにとってリアリティーのある学びを提供しなければならないと、次のステップに踏み出す気づきをいただきました。」(石井)
生活に必要な日本語を、リアルにイメージしながら学んでもらいたい
たとえば、NPO法人日本ボリビア人協会からの依頼で共同開発した「家で学べる日本語通信講座(スペイン語版)」は、文化庁が行う「生活者としての外国人」のための日本語教育事業のなかで制作したものです。育児や仕事で学ぶ時間が限られているお父さん・お母さんを対象に、すぐに使える生活に必要な日本語を学べるよう構成されています。「スーパーの『半額』の意味がわかり、お得な買い物をすることができました!」など、現実に役立ててもらえた声もいただくとか。
「あるお母さんは、教材が届くと小学生の娘さんがすぐに寄って来て、『私がお母さんに日本語を教えてあげるよ』と言ってくれるのだとか。それがとてもうれしいと話されていました。働く人は職場で、子どもたちは学校で日本語のコミュニケーションに触れることができます。でも家にいることが多いお母さんはそうはいきません。ことばを学ぶことを通して会話が生まれたり、課題が解決したりすることで、家族みんなが笑顔になってもらえるといいですね。」(石井)
ことばの学びを通して社会に主体的に関わる。それが「よりよい生活」につながる
ラーンズは他団体とのパートナーシップを組みながら、「はたらくための日本語(*1)」の販売や「社会参加のための日本語通信講座(*2)」などの教材開発を行うほか、多文化共生に関連する社会課題の調査・研究なども行っています。
「日本語を学ぶことそのものではなく、日本語の学びを通した活動や取り組みで社会に主体的に関わっていこうとする意欲が、よりよい生活につながるのではないかと思います。国籍や年齢にかかわらず、ことばの教育を通してだれもが幸せになれるような活動ができること、そんな未来を思い描いています。」(石井)
現場・現実に根ざした活動は、これからも続きます。
*1 「はたらくための日本語」⇒日本国際協力センター(JICE)の著作のもとラーンズが編集・出版・販売
*2 「社会参加のための日本語通信講座」⇒文化庁の平成27年度「第三国定住難民に対する日本語教育事業」を担う教材としてラーンズが企画制作
情報
株式会社ラーンズの「多文化共生事業」
https://www.learn-s.co.jp/edu/pc/0tabunka/
取材協力
石井丈司(いしい じょうじ)
企画制作部日本語教育事業開発課
高校生向けの地歴公民教材の編集に従事する傍ら、多文化共生事業の立ち上げに参画し、在住外国人への生活情報や日本語学習教材・サービスを地域の人とともに開発・提供している。