次期学習指導要領では、小学校段階における「プログラミング教育」の必修化が明記されます。目指すのは「プログラミング的思考」、問題の解決に必要な手順を論理的に考えていく力です。注目度が高まる中、一般の小学校でも新しい授業の試みが始まっています。

音楽の時間。机の上には楽器ではなくタブレット端末

「これ、やってみようよ!」「うん、それでいいと思う!」大阪市立茨田東小学校の3年2組の教室からは、子どもたちが楽しそうに話し合う声が聞こえてきます。1月31日の第5校時。音楽の時間ですが、子どもたちの手にはリコーダーもカスタネットもありません。4人1組で机をくっつけ、グループになった子どもたちが使うのは、楽器ではなくタブレット端末。同校は、2017年度大阪市プログラミング教育推進事業の協力校であり、4月から「教科におけるプログラミング教育」の研究に取り組んでいます。
ベネッセコーポレーションは大阪市の委託を受けて、同校のプログラミング教育について授業計画の設計やタブレット端末に搭載する教材の開発などの支援をしてきました。本授業は、同事業におけるプログラミング教育研修・公開授業として実施されました。

友だちと協力し、筋道を立てて考える「魔法の音楽づくり」

これからの社会で求められる論理的思考力や創造性、問題解決能力を育むため、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されます。ただ、「プログラミング教育」と言っても、「プログラミング」という教科があるわけでもプログラミング言語を習うわけでもありません。国語科や算数科など、普段勉強している教科・単元の中で、子どもたちが目的に応じてコンピュータを使うことで、問題の解決には必要な手順があることに気付き、論理的な思考力を獲得していくことがねらいです。だから、同校のプログラミング教育の研究テーマも、「友だちと協力し、筋道を立てて、課題解決できる子どもを育てる。」となっています。

音楽科「いろいろな音のひびきをかんじとろう」という単元で、子どもたちがタブレット端末を使ってつくろうとしているのは「効き目の強い魔法の音楽」。魔法の力を使ってすてきなお菓子をつくろうとしている魔法使いのことを歌った歌詞に合わせて、本当にお菓子に魔法がかけられたような音楽をつくります。
この日の授業は、音楽室にある楽器の音をタブレット端末に収め、グループで話し合いながらいろいろな楽器の音を重ねたり、強弱をつけたりしながら自分たちのグループの「魔法の音楽」をつくる時間です。これは、自分の考えや他者の意見を大切にし、音の組み合わせや重ね方を工夫し、試行錯誤を繰り返すプログラミング学習なのです。

試行錯誤の20分間を楽しむ小学3年生

1学期に初めてタブレット端末に触れたときは、操作がわからず困ってしまう子どももいたそうですが、いまではマウスやキーボードの操作にもすっかり慣れたようです。担任の井上理恵教諭は「私自身、音楽もパソコンも苦手で、プログラミング教育についての知識もありませんでしたから、最初はとても不安でした」と振り返ります。「でも、どのボタンを押せばスタートするのかもわからなかった子どもたちが、興味を持ち続け、一生懸命に取り組む姿に、私もがんばってみようと背中を押されました」(井上教諭)

一番の成果は、「もっと考えよう」という姿勢が今まで以上に強く感じられるようになったことと井上先生は話します。

「音楽の時間では、子どもたちが実際に楽器に触れるのはとても大切なことです。でも、子どもたちにとっては、つくった音楽をリズムや強弱などを意識して再現するのは簡単ではありません。また、楽器を鳴らすのが楽しくて、音を出すことだけに夢中になってしまうこともあります。しかし、タブレット端末を使うことで、自分たちがつくった音楽を何度も再現しながら、よりイメージに合った音楽づくりを進めることができます。今日の授業でも、『音をこんなふうに重ねた方が魔法みたいだよ』などとみんなで話し合いながら、計画ボードに楽器の音の組み合わせを書き込み、よりよい音楽をつくろうという様子が見えました」(井上教諭)

実際、どの班も「どう思う?」「これだとどうかなあ?」といった話し合いの声がやむことはありませんでした。まさに「友だちと協力し、筋道を立てて、課題解決」しようとする子どもたちの姿がそこにありました。

プログラミング教育がつくる、新しくて普遍的な「学び」

完成した音楽はタブレット端末に保存され、ほかのグループの音楽を聞きに出かける「ツアータイム」になりました。子どもたちは「音の重ね方がきれいだった!」「タンブリンの音が魔法の粉をかけている音みたいに聞こえた!」などと言いながらそれぞれの作品を鑑賞しました。次の授業では、自分たちがつくった音楽を、本物の楽器を使って演奏します。

「効き目の強い魔法の音楽をつくる」ことを目的としたとき、本物の楽器では、演奏技術や学校にある楽器の数の影響を受けてしまいます。プログラミングだから、タブレットだから、どう楽器を重ね合わせればいいか、音を出して思い通りかどうかを確認でき、友だちと話し合いながら試行錯誤を繰り返し、自分1人では思いつかなかった音楽にたどり着くことができる。プログラミングの授業は、社会が求めている「主体的・対話的」そして「深い学び」を、みんなに効果的にもたらしていたのです。未来を生きる子どもたちに必要な学びを提供する、プログラミング教育の新しい試みが始まっていました。

関連サイト

  • ベネッセコーポレーションでは、プログラミング(「プログラミング的思考」の育成に資する学習活動)で育成をめざす資質・能力、および、それを評価するための規準を、
    ・中央教育審議会の審議取りまとめ
    ・文部科学省有識者会議の議論取りまとめ
    ・海外の事例
    などを参考に、大学・企業・NPOに所属する複数の有識者と協力して、試行版を作成し、公開しています。
    http://benes.se/keyc