子どもたちが家庭で過ごす時間が増える夏休み。ベネッセコーポレーションでは、2004年から毎年、夏休みの間の子どもたちが身近な課題に“自ら気づき、自分で考える”ための機会として、「全国小学生『未来』をつくるコンクール」を実施しています。長期化するコロナ禍で、家で過ごす時間が増え、外の世界での体験的な学びの機会が限られる中、どんな思いをもってこのコンクールを子どもたちに届け続けているのか。今年で19回目を迎えたコンクールの担当者に、実施の背景にある狙いや大切にしていることを聞きました。

夏休みをきっかけに、学校とは違う家庭での学びを広げるコンクール

「全国小学生『未来』をつくるコンクール」は、全国の小学生を対象に「作文」「自由研究「絵画」「環境」の4つの部門・テーマに沿って子どもたちが考えを形にした作品の中から、瑞々しい感性やアイデアが光るものを選出するコンクールです。毎年数多くの作品が寄せられており、昨年度は2.8万件以上もの応募がありました。
普段は「進研ゼミ小学講座」の教材編集などを手がけながら、このコンクールにプロジェクトの事務局として携わるのが、黒瀬裕之・永田千晶・久保川洋一の3名です。
20年近く実施しているコンクールについて、その狙いや実際に参加したご家庭からの反響を聞いてみました。
「コンクールの部門の一つでもある『自由研究』といえば夏休みの宿題の定番だと思います。しかし、単に宿題として終わらせるのではなく、学校とは違う『家庭』というお子さんにとって最も身近な環境で、日常の中にあるできごとや身の回りの問題に目を向け、お子さんなりの観点で考えを深めてもらうことを目的としています」。(黒瀬)

「毎年実施しているアンケートでは、保護者の方から、『家で話題にしたことのないテーマも、ポスターを見て自分なりに考えて取り組んでいて、小学生としての自覚を持っているようで感心しました』、『自分でやりたいと言い、自ら机に向かって取り組む姿勢に成長を感じ、親としてもとてもうれしかった』といったコメントをたくさんいただきます。ご家庭でお子さんががんばって取り組む姿を身近で見ることで、保護者の方がそれまで気づくことのなかったお子さんの新たな一面や成長の瞬間を感じられる機会になっているのだと感じます」。(久保川)

家庭という身近な場で、子どもと保護者が一緒に考え、学びや成長を実感する機会に

長引くコロナ禍でも、「できる学び・体験」とは?身近なところに課題を見つける、子どもたちの個性あふれる着眼点

長年実施するなかでも、コンクールでは応募の部門・テーマは大きく変えていないとのこと。しかし、近年子どもたちから提出する作品を見ていると、少し変化の傾向が見られるようになったそうです。

「ここ数年はコロナ禍の影響もあり、外での体験を通して得られた気づきより、家の中で感じた疑問や課題を題材にした作品が増えました。きょうだい喧嘩を減らす方法や、台所で見た魚の赤身・白身に対する疑問、家の中の効果的な換気の仕方など、家で過ごす時間が増えたことが、子どもたちの作品の題材に影響しているように感じます」。(黒瀬)

「家族が研究の出発点やきっかけになっているものも、以前より多くなったと感じます。例えば、昨年度の受賞作品に、妹さんが生まれたことをきっかけに離乳食に関心を持ち、視点を拡げて世界の離乳食を研究したものがありました。他にも、37年前にお父さんが行っていた地元の川の研究を引き継ぎ、お子さんが自分の研究としてアップデートするようなものもありました」。(久保川)

20数か国に英語でアンケートを取り、世界の離乳食を調べた「自由研究部門(小学3年生)」大賞受賞作品『世界のりにゅう食たいけんツアー』

「以前のようにワークショップやイベントへの参加が難しくなるなかでも、各ご家庭で『外に行けないなりにできること』を工夫されている印象です。また世の中の環境意識の高まりもあり、子どもたちの間でも環境というテーマがより身近になったように感じます。同じ『ごみを減らす』というテーマでも、『お母さんを助けるための工夫』や『点数制にして家族みんなで取り組む』などそのアイデアはさまざま。環境問題を自分事として捉え、自分なりの実践の切り口を考えるような、子どもらしい自由な発想が増えたように思います」。(永田)

約20年に渡り寄り添ってきたからこそ、「子ども自身が考えること」を大切に、これからもこだわり続ける

応募作品に時代や社会の変化を照らしたような傾向が見られるようになり、取り組み方や学びの在り方も多様化している昨今。そんな中でも、長年実施しているからこそ、変えていないコンクールとしての「姿勢」について黒瀬たちが語りました。

「自分自身で解決しようという姿勢を応援し、その背中を押してあげるのがこのコンクール。子どもが取り組みやすいよう、テーマ設定をより手軽なものにしたり、具体的なものを提示したりという方法もありますが、大人から手を差し伸べすぎるのではなく、子どもが自分で考え、『内から出てきたアイデアや思い』を大切にしたいと考えています」。(黒瀬)

「変わらないのは、『子どもが自分で考える』ことを大切にする思いです。最近はSDGsへの関心の高まりもあり、『環境』というテーマへのアプローチの幅にさらに広がりが出てきて、作品にさまざまな個性が出てきたように感じます。大人が道筋を与えすぎるとかえって視野を狭めてしまいますが、ヒントになるような手がかりをいろいろと投げかけることは、お子さんならではの発想を引き出す大事な手助けになります。それによって『これも環境に結びつく!』とお子さん自身が気づき、自分なりの考えを組み立てられるようになるための間口を広くしてあげることが大事だと感じます」。(永田)

「作品の審査をしていると、子どもたちの自由な発想や作品に込められた思いが伝わり、本当に元気がもらえます。受賞作品に限らず、一つひとつの作品に、お子さんが一生懸命取り組んだ姿がそこにあります。その頑張りをたたえるためにも、できるだけ多くの方に作品を見てもらいたいと感じます」。(久保川)

「近年、プログラミングやスピーチといった部門新設に対するご要望などさまざまなご意見をいただくようになりました。時代に応じてコンクールの仕組みなどはアップデートしていきたいと考えていますが、学びが多様化する中でも流行りごとに捉われず、このコンクールの名前にもなっている『子どもの未来をつくる』ために、今何ができるのかを考え続け、ぶれない思いを大切に実施していきます」。(黒瀬)

開始から間もなく20年。変化が大きく予測が難しいこれからの時代においても、子どもたちの可能性を引き出す機会であり続けることを大切にするコンクール。今年も9月上旬まで、子どもたちの未来に向けた思いがこもった作品を受け付けています。

情報協力

黒瀬裕之、永田千晶、久保川洋一

株式会社ベネッセコーポレーション
「全国小学生『未来』をつくるコンクール」事務局
(左から:黒瀬裕之、永田千晶、久保川洋一)
コンクールのプロジェクト事務局として運営・推進を担う。普段はそれぞれ「進研ゼミ小学講座」の教材編集などを担当。

情報

第19回 夏のチャレンジ 全国小学生「未来」をつくるコンクール
主催:ベネッセ教育総合研究所
共催:進研ゼミ小学講座 ベネッセグリムスクール ベネッセの学童クラブ
後援:文部科学省 環境省 東京都教育委員会 全国小学校理科研究協議会 全国教育研究所連盟 一般社団法人環境教育振興協会 全国都道府県教育委員会連合会 公益社団法人日本PTA全国協議会
協力:帝人フロンティア株式会社
URL:https://sgaku.benesse.ne.jp/sho/all/others/concour/index.shtml