デジタルデバイスの普及は子どもたちの生活にも大きく影響を与え、先般のコロナ禍でさらなる加速が進みました。今や多くの子どもたちが日常の中で携帯電話やスマートフォンに接することはごく当たり前となり、それに比例してゲーム時間も増えているとされます。

デジタルデバイスやゲーム利用を制限しようと苦心する家庭も多くあるものの、大きな時代の流れでは大人も含めてその利用が減ることはない不可逆的な変化の中、子どもたち自身の意思で「やりたい」と思う新たな学びへの挑戦として誕生したサービスがあります。それが、ベネッセコーポレーションがセガXDとの共同開発でリリースした新感覚のゲーム型英語学習アプリ「Risdom(リズダム)」(以下「リズダム」)です。通常のゲーム開発のプロセスと異なり、1万人を超える中高生との共創を経て生まれたアプリの開発背景とその反応について、担当者に聞きました。

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子どもたちの学習意欲低下と増大するゲーム時間にアプローチする、新しい学びの必然性

子どもたちの生活と学びにかかわる意識や実態について、気になるデータがあります。東京大学とベネッセ教育総合研究所が2015年から毎年継続して実施している、小中高生を対象とした大規模調査で、家族での旅行・地域行事・スポーツ観戦など、子どもたちのイベントや活動への参加は少し前のコロナ禍で軒並み減少したものの、直近では以前の水準まで回復していることがわかりました。一方で、課題となっているのが学びへの意識です。「勉強しようという気持ちがわかない」と感じる小中高生は2019年から増加。特に小学校高学年における上昇幅が大きく、全体として子どもたちの学習意欲は近年下がり続けていることが見てとれます。

「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」より(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所、2023年7~9月実施。全国小学1年生~高校3年の子どもとその保護者を対象とする郵送調査で2023年の回収数は約1.3万件。他年度はWebサイトにて公表あり)。なお、同じ調査で、「勉強する理由」について「将来なりたい職業につきたい」「自分の希望する(高校や)大学に進みたい)」を選択する小中学生が減少。将来の目標に向かって学ぶ動機づけが弱まっていることがうかがえる。また「上手な勉強のしかたがわからない」小中高生は6~7割と多くを占めた。

子どもたちの生活時間にはどんな変化があるのでしょうか。1日の中で過ごす時間のうち、テレビやDVDを見る時間は経年で減る一方、携帯電話やスマートフォンを使う時間は右肩上がりに増えています。今や小学校高学年でも1日あたり約30分、中学生では1時間半、高校生ともなると2時間以上。学齢があがるにつれて多くの時間をデジタルデバイスと共に過ごす様子が浮き彫りとなりました。

こうした子どもたちの意識や実態を前提として、これまでの延長線上ではなく、増大するスマートフォンの利用・ゲーム時間にフォーカスした新しい学びの提供として誕生したのがリズダムです。

リズダムは、ベネッセグループで行われる社内提案制度「B-STAGE」での2021年の受賞を機に、その後約2年にわたるセガXDとの共同開発を経てリリースされました。その過程において特徴的だったのは、「リズダム開発室」と呼ばれる中高生を中心とする開発メンバーであり、ユーザーでもある“子どもたちとの共創”でした。

「通常のゲーム開発は、その新奇性を保つためにも、世に出るまでは徹底的な非公開のうちに制作されることがほとんどです。しかし、開発室のメンバーである中高生たちのコミュニティと日々つながりながら、すべてをオープンにし、シンプルにユーザー目線からの開発を徹底しました。そして、本当に面白いと思ってもらえるのか?この内容でギャップはないか?反応や熱中の様子を注意深く見つめ、彼らの声を取り入れて検証と改良を幾度となく繰り返しました。その結果、リズムアクションゲームの英語学習アプリ、という一つの形に結実したのがリズダムです」

リズダムの企画を提案し、現在はプロデューサーとしてサービス全体を統括する石田(ベネッセコーポレーション 新規事業開発部)はそう話します。

ベネッセコーポレーションとセガXDが共同開発し、やる気を高めながら学習を進められるゲーム型英語学習アプリ「リズダム」のポスター。英語の勉強をしてゲーム内のキャラクターを育成する「キャラ育成」と、育成したキャラクターで敵を倒す「リズムバトル」の構成で、ゲームを進めるために英語の勉強に取り組むうちに英検®や受験に必要な知識が身につく内容となっている。 ※「英検」は、公益財団法人日本英語検定協会の登録商標です。

勉強ではなく、ゲームとして楽しむ学びだからこそのひろがり

当初は全く違う形を想定していたものの、リズムゲームと英語との組み合わせという異色のゲーム型学習アプリとなったのも、この開発室メンバーの反応が大きかったといいます。

「開発室はサービス名も当然全くなかったコロナ禍の頃スタートしました。普通の学習や通学もままならない中で学習意欲は減退し、一方でゲームやデジタルデバイスに触れる時間は伸びる一方。学びに向かう動機がなかなか作りにくい中で一体何ができるだろうか?というところから始まりました。その時に、市場調査の実施とあわせて『ゲーム開発に興味ある人いますか?』と呼びかけたところ、応えてくれたのが開発室メンバーの子どもたちです」

「リズムゲームは正直開発がかなり大変ということもあり、当初は違うゲームの形を想定していました。でも、実際につくってみると圧倒的に反響が大きかった。今でも印象的なのは『初日で、5時間やっちゃいました』という声です。それはさすがにやり過ぎかもしれませんが(笑)、でもそんな声があがるような学習サービスはこれまでなかったんじゃないかと思います。リズダムを通して子どもたちが本来もっている集中力の高さにふれ、私自身も驚いています」

開発室メンバーが友人などを誘ううちに、今では2万人を超える規模となった共創コミュニティを立ち上げ期から運営。現在はリズダムのディレクターとして石田と共に開発を推進している 杉 浩輝(ベネッセコーポレーション 新規事業開発部)もその印象を語ります。

「当初は中高生をメインのユーザーとして考えていましたが、リズムゲームを楽しむ層は幅広く、今では小学生から社会人のかたもゲームで盛り上がりながら英語を学んでいるという反応や結果をいただくようになりました。隙間時間にも気軽にふれられるアプリのため、社会人のかたであれば『疲れているときでも気分転換をかねて』取り組まれていたり、お子さんの場合はゲームとして熱中するうちに、学校でまだ学んでいない範囲に進んでいることも多く、保護者の方からの『あなたの(知っているはずの英単語の)レベルじゃない。なんで知っているの?』という声を目にしたことも。勉強というよりゲームとして楽しむ、そんな新しい学び方がまさにひろがっている手応えを日々感じています」

リズダムはリズムゲームからスタートし、英語学習だけではなくリズムゲームだけでも遊ぶことができる。しかし、実際はゲームを進めるために、通常のゲームでいういわゆる「課金」に変わる「勉強モード」へと進むユーザーがほとんどで、ログデータの検証からは「ゲームをするほどに、より英語学習を進めている」という結果が出ている。

学習×ゲームのプラットフォームで、本質的な学びの楽しさに気づける体験を

リズダムのほか、中高生がオンラインでつながり勉強ができる自習室アプリ「StudyCast(スタキャス)」や、プロ講師の授業とAIを組み合わせながら個別に苦手の問題を攻略する「AI StLike(AI ストライク)」など、これまで複数のサービス開発に携わってきた石田に、新しいものを生み出すうえで大事にしていることを聞いてみました。

「元々は通信教育サービスの<進研ゼミ>で、高校生の会員を対象とする学び支援から始まりました。その後のユーザー目線でのサービス開発のベースには<進研ゼミ>での経験があり、そこはある意味ベネッセらしいところだと思います。ただ、新しいものを生み出すうえではこれまでの知見や経験に捉われず、今の世の中で中高生の子どもたちが使うものと並んだ時に、その可処分時間とマインドをどうしたらこちらに向けて『やってみたい』と心から思ってもらえるだろうか、ということを強く意識しています。そして、新しい技術も組み合わせながら、子どもたちが利用するアプリなども徹底して自分でも実際にふれて研究します。そのうえで、さまざまな一人ひとりの声にとことん向き合い応えていくこと。それが人の琴線にふれるサービスにつながっていくのだと思います」

そうして誕生したリズダムは、登録者30万人を超え(2024年11月現在)、多くの人に利用されるアプリとなりました。しかし「まだスタートライン」という杉と石田の2人に、これから思い描く世界を聞くと、次のように語ってくれました。

杉「自分自身もゲームをしてきましたが、それはただずっと楽しかったからだと思います。今、勉強はつらいとも言われ、子どもたちのモチベーションが下がっているとも言われていますが、ゲームを通して楽しく学ぶことができれば世界はひろがる。遊んでいるのに、いつの間にか英語を覚えて、その延長でいつのまにか海外にも飛び出していくことだって本当にある。リズダムを提供しながらそう感じています。そんな風に、学びへの抵抗感なく、シンプルに楽しみながら、子どもたちの世界や価値観をひろげるようなサービスを届けていきたいと思います」

石田「これまでのゲーム型学習教材は、従来型の教材にゲーム的な演出を追加したものが多くありました。リズダムは、「ゲーム」としてハマってもらった上で、通常のゲームであれば「課金」をするところを、「課金」の代わりに「勉強」して強くなることができる、という新しいエコシステム(※1)。まずはサービスの認知をひろげながら、学習×ゲームというプラットフォームで本質的な学びの楽しさに気づける子どもたちを増やしていきたい。それは教育業界にとっても革新的なことですし、ゲームが子どもたちにとって有益な学びにつながるということはゲーム業界にとっても同じく革新的なこと。この2つの業界をつなぎながら、これまでの常識を覆し、今という時代に即した新しい学びの世界を創り出していきたい思います」

※1:企業同士がお互いに協力し、それぞれの業務やサービスを補う構造を指す

2024年9月に行われた「東京ゲームショー」でのリズダムブースの様子。体験をする親子と、サービスを説明する石田

縮小する勉強時間ではなく増大するゲーム時間にアプローチし、目指すのは子どもたち自身の意思によって学びに熱中する世界。その未来に向かって、リズダムの挑戦はこれからも続きます。


情報協力

石田 洋輔

ベネッセコーポレーション 新規事業開発部 「進研ゼミ高校講座」の数学編集を担当したのち、中高生のオンライン学習管理アプリ「StudyCast(スタディキャスト)」を開発責任者として立ち上げグッドデザイン賞を受賞。さらに、AIを活用した学習アプリ「AI StLike(AIストライク)」を開発責任者として立ち上げグッドデザイン賞・日本e-Learning大賞にて「経済産業大臣賞」を受賞。ベネッセグループの新・提案制度「B-STAGE」では「学習×ゲーミフィケーション」の新規事業を提案し優秀賞の受賞を経て「リズダム」をリリース。


杉 浩輝

ベネッセコーポレーション 新規事業開発部 2020年ベネッセにDX人財として新卒入社。「進研ゼミ小学講座」のデジタル企画担当を経て、2021年より「リズダム」立ち上げ期からのディレクターを担当。


ゲーム型英語学習アプリRisdom(リズダム)

https://risdom.benesse.co.jp/