少子高齢化による労働人口の減少が大きな問題となる中、人そのものを重要な資本とする人的資本経営と共に、労働力の活性化・多様性の確保などの観点から、国内の企業にはさらなる女性活躍推進が求められ、女性の採用や女性管理職の登用機会も増えています。

働く女性は増加する一方で、課題視されているのが「管理職になりたくない」という女性たちの声です。社会や企業の思惑が先行し、女性たちの意思に大きなギャップがある中で、ベネッセコーポレーションでは20~30代の女性社員を対象とする、新しいキャリア形成支援サービス「withbatons(ウィズバトンズ)」を2024年6月に開始しました。女性管理職を表面的に増やすのではなく、「女性一人ひとりの前向きな意思をデザインする」新たな挑戦と、その裏にある思いを聞きました。

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働く人は増えても、「管理職になりたくない」女性たちのリアル

日本における女性活躍推進の現在地を示すデータがあります。世界経済フォーラムが毎年発表する、グローバル・ジェンダーギャップ指数で、2024年に日本は146か国中118位。先進7か国(G7)の中では最下位に位置し、長期推移ではゆるやかに下降を続けています。

一方で、働く女性の数は年々増えていて、2023年の就業者数で男性は3,696万人と前年より3万人減少するも、女性は3,051万人と前年より27万人増加。働き手の女性たちの母数そのものは増える傾向が近年続いています(令和5年総務省「労働力調査」より)。今や就業者全体の半数に迫る勢いまで働く女性が増えているにもかかわらず、いまだに低いとされるのが、管理職になる女性の割合です。管理職に占める女性割合の国際比較で、諸外国は3割以上が多い中、日本は1割程度と極めて低い水準となっています。

  • 世界経済フォーラムが毎年発表する、グローバル・ジェンダーギャップ指数(各国の男女格差を経済・教育・健康・政治の4分野で評価し、国ごとのジェンダー平等の達成度を指数で表したデータ)の推移。日本の順位は、女性閣僚が増えるなど政治分野での改善が評価され、2024年は過去最低だった前年の125位からは持ち直したが、長期的には下がり続けている。
  • 就業者の規模と、管理的職業従事者に占める女性の割合の国際比較。日本は14.6%と諸外国と比べ著しく低い。

こうした事象の背景には、「管理職になりたくない」という女性たちの本音があります。ベネッセコーポレーションが実施した、若手女性社会人を対象とする調査では「管理職になりたくない」と回答する人が6割(※1)と多数を占めました。

なぜ、女性たちは管理職になりたくないのでしょうか。働く女性たちへのインタビュー(※2)からは「子どもや家庭、プライベートを犠牲にしないと両立など到底できない」、「(仮に管理職になったとして)困ったときに周りが助けてくれるイメージがわかない」と、管理職=激務という固定化されたマイナスイメージや、味方がいないことでの不安を感じる人が多くいました。さらに、「周囲には目指したい女性リーダーがおらず、将来が描けない」「モデルケースが圧倒的に少ない」と、キャリアイメージを描くためのロールモデルが不在で、ありたい姿を見つけられない女性たちの姿が浮き彫りになりました。

こうした女性たちが抱える不安や悩みに対し、これまでと違う新たな手法で一人ひとりの主体的で前向きなキャリア形成を提案するのが「withbatons(ウィズバトンズ)」です。

※1:女性非管理職正社員に関する調査/n=500(2024年2月)より。「全くなりたくない」が34%と一番多く、「あまりなりたくない」が29%。管理職になることに意欲的な「とてもなりたい」はわずか2%、「少しなりたい」が13%(他は「どちらでもない」22%)

※2:20代・30代非管理職女性社員80名へのインタビュー(2022年8月)


「きっとどこかにいるはず」の先輩と、本当に出会える機会を

この新しいサービスは、ベネッセグループで行われる社内提案制度「B-STAGE」での受賞がきっかけとして誕生しました。事業の構想から立ち上げの全般に携わる白井 あれい(ベネッセコーポレーション 女性キャリア支援事業部)は、「自分自身、ずっとキャリア迷子だった」原体験がその着想につながっていると振り返ります。

「新卒で厚生労働省に入り、激務ながらも熱量の高い先輩たちと働いたことがキャリアのスタートでした。その後、20代のうちの次の挑戦として外資系企業へ転職し、全く違うカルチャーにとまどいながらも、必死で仕事を続ける中で長男を出産。その後は子どものいる生活を前提として仕事を変え、2人目の子どもを産んだ産休中に管理職となりました。保育園の関係で産後半年で復帰したところ、ちょうどそのタイミングで子の持病が見つかったこともあり、そこからは育児・ケアと仕事が重なり合う中、『自分にとって仕事ってなんだろう』と一人で自問自答する日々。いつもどこかで、“きっとどこかにいる、普通の先輩に相談したいだけなのに”と思っていました」

「その後、保育や教育の可能性を感じてベネッセに入社。2021年に始まった新規事業提案制度に関わる中で、社会に貢献するいまだないビジネスを生み出そうと、とんでもなく熱い思いをもった人にたくさん出会いました。“ベネッセなら、本気であれができるかもしれない”、そう感じてほかのメンバーと一緒に、あたためていた女性キャリア支援の企画を2022年の応募が始まった際に一番乗りで提出しました」

周囲に身近なロールモデルが少なく、ライフイベントが多様ゆえに不安が大きい女性が、キャリアを切り拓き・前を向くための支援サービス企画は、この年の「B-STAGE」で特別賞を受賞します。その後、1年間の実証研究を得て、2024年6月にサービスの提供開始へと至りました。

「withbatons(ウィズバトンズ)」は、キャリア研修・サーベイとメンタリングがセットになったプログラムで構成され、事前のサーベイ結果を元に、ベネッセ独自のアルゴリズムでAIがマッチングする女性メンター6名と、1対1の対話を重ねる。メンターはリーダー経験のある社外の女性社員で、「外の世界の人」であることも特徴だ。さまざまな経験・バックグラウンドをもつ複数の先輩たちの多様で身近なキャリアストーリーを元にした対話を通じて、若手女性社員が自らありたい未来を見つけ、キャリアデザインができるようサポートする。

女性リーダー達のバトンをつなぎ、いつか「女性活躍推進」という言葉がなくなる社会へ

白井と一緒に、新サービスの基盤開発やサービス提供に携わる、小林 今日子(ベネッセコーポレーション 女性キャリア支援事業部)は、実際にサービスを体験した女性たちの変化を語ります。

「『withbatons(ウィズバトンズ)』は同じ人と対話するのではなく、1回45分のオンラインの出会いを6回、メンティーの女性に提供します。この、“一期一会”だからこそ本音や素直な声が出せることを毎回実感しています。そして、回を追うごとに変化があり、(自分のキャリアを)「特にこれ以上を望んでいません」と話されていた方も、あるメンターの女性の生き方に触れたことで、「こんなふうに楽しみながら生きる10年後があるなら、今から何をするか考えたい」と話すなど前向きな意識に変わる様子を見て、「実像に会う」ことの手応えを感じます」

「メンターをしてくださる女性にも、お子さんのことで問題を抱えてきた方、結婚しない人生や子どもをもたない人生を歩まれる方、仕事の傍ら介護をされてきた方・・・色々なキャリアストーリーがあります。その方たちから『なんでもないと思っていた自分の人生が誰かの役に立つことがうれしい』という声をいただき、前向きな気持ちを生むバトンがつながる瞬間を目の当たりにしています。そして、サービスを採用してくださる企業のご担当者もまた、企業規模が大きい会社でも女性活躍やダイバーシティー推進は自社の中で前例がなく、孤軍奮闘されている方ばかりです。今、女性活躍支援というテーマでイベントなども実施すると反響が大きく、「ここから新たな化学変化や何かが始まりそう」と思えます。頑張っている女性たち、そして企業の方を支える新しいサービスをひろげていきたいと思います」

2023年に25社を対象に実施したトライアルで、サービスを受けたメンティーの女性たちの実施前後の変化。今後のキャリアでの「目標がある」という回答、将来のキャリアとして「管理職になりたい」という回答のスコアが大きく伸びている。一方でキャリアイメージが見えたことで、現在の会社での転職意向は下がった。

最後に、白井にこれから思い描く世界を聞いてみました。

「女性活躍推進というキーワードが飛び交う世の中になっても、女性たちのしんどさは、私自身が焦燥感を抱え悩んでいた10年前と比べ本質では変わっていないように感じます。それをこの世代でなんとか解消したい。そもそも、このキーワードがあるのも、いまだ女性の活躍や女性管理職の存在が“マイノリティー”であるからこそ。女性たちが様々なキャリアのサンプルに出会い、たくさんのキャリアの選択肢から、結果として前へ進むことを自らの意思で決めるために。こうしたサービスや機会が、企業に入ったら当然のように存在している社会を目指していきたいと思います」

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女性リーダー達のバトンをつなぎ、女性がキャリアを自らの意思で前向きにデザインできる社会へ。「withbatons(ウィズバトンズ)」の挑戦は、今まさに始まったばかりです。


情報協力

白井 あれい

ベネッセコーポレーション 女性キャリア支援事業部 部長 大学卒業後、厚生労働省に入省。法改正担当を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。出産後、生後半年の長男を連れて、英大学院に留学。帰国後、資生堂に転職し、美白スキンケア商品の開発、北米マーケット担当、グローバルブランドの戦略立案を担当。シンガポール勤務を経て、2020年にベネッセコーポレーションに入社し、「withbatons(ウィズバトンズ)」を立上げ。


小林 今日子

ベネッセコーポレーション 女性キャリア支援事業部 2001年ベネッセに入社。学校向けの商品・システム開発など手掛けた後、白井と共に「withbatons(ウィズバトンズ)」を立上げ、現在サービス開発やシステム開発に携わっている。


withbatons(ウィズバトンズ)

https://mentoring.benesse.co.jp/withbatons/