2021年夏、瀬戸内海にある豊島(てしま)で、「Ontenna x 豊島 Art Workshop」が開催されました。参加したのは、高松から船で豊島を訪問した香川県立ろう学校の児童・生徒と、地元の豊島中学校の生徒たちです(上の写真は港での歓迎の様子)。テクノロジーを使いアート作品を通して音を体感するなかで、人それぞれの感じ方があることに気づいた子どもたちは、障がいの有無を超え、一人ひとりに向き合い、理解しようとすることの大切さを学びました。企画運営を行った福武財団・藤原綾乃氏への取材から、その一部をご紹介します。

地元のアートとテクノロジーを活用し、子どもたちに新しい気づきの場を提供する

Ontenna(オンテナ)」は、音の大きさを振動と光の強さに変換するアクセサリー型装置です。「障がいの有無にかかわらず音を楽しめる未来をつくりたい」という開発者・本多達也氏(富士通)の思いと、豊島のアート作品や自然を五感で体感してほしいと願う福武財団の共同プロジェクトで実現しました。

青く光るのがOntenna。リアルタイムに音のリズムやパターン、大きさを知覚することができ、聴覚に障がいのある人も目や肌で音を感じることができる。

豊島中学校の生徒15名と香川県立ろう学校の小・中・高生12名は2校混合でチームを組み、アート作品「心臓音のアーカイブ」と「豊島美術館」へ。はじめは緊張していましたが、手話やジェスチャーを交えたり、口の動きを読んだりと、積極的に対話をしながらワークに取り組みました。

Ontennaを使い「手の平に心臓がのっているみたい!」

「心臓音のアーカイブ」にある部屋の1つ「ハートルーム」には、世界中から収集した心臓音に合わせて電球が点滅するインスタレーション作品があります。ここでは最初に目で見て、それからOntennaを使って鑑賞し、感じ方の変化を経験しました。

 「心臓音の力強さが光り方でわかる!」と驚きの声があがるなか、ろう学校の生徒たちからは「目で見るだけでは暗くて怖い」という反応も。ただOntennaを使うと、「心臓が手の平にのっているみたい! リズムを感じることで落ち着いた」と、音を体感する面白さを発見したようでした。その様子に豊島中学校の生徒たちも、「なぜ怖いんだろう?」「同じものに対して感じ方が全然違う」「(あらためて)自分はどんなふうに感じているかな?」と、それぞれの視点で考えをめぐらせていました。

「心臓音のアーカイブ」は、これまで作家が集めた世界中の人々の心臓音を恒久的に保存し、それらの心臓音を聴くことができる小さな美術館。写真の「ハートルーム」のほか、「リスニングルーム」「レコーディングルーム」がある。

次の「リスニングルーム」では、約7万の心臓音を聴くことができます。聴覚のレベルによって、ヘッドフォンを使う・Ontennaを装着するなどで音を感じていましたが、机をたたいてリズムを教えあったり、ワークシートを見て「ここは一緒だね、ここは違うね」と伝えあったりするなど、互いの音の楽しみ方に興味をもち、理解しようと工夫する様子が見られました。

心臓音を聴き、ワークシートに感想を書き留める。

「この振動はセミの声だよ」。自然の音を五感で感じ取る面白さ

このあとチームは「豊島美術館」へ。向かう遊歩道には、木々の緑がいっぱいです。自然の音がさまざまにあふれ、身に着けたOntennaが反応します。普段は気づくことのなかった刺激的な感覚を、みんなでワクワクしながら楽しんでいました。

写真下/「豊島美術館」(内藤礼・作。2010年)では、床から生まれる水の動きや、天井の開口部から入り込む光や風を感じることができる。

人は、一人ひとりちがうもの。その気づきが未来を拓く力になる

「手話ではこれはどう表現するの?」と聞くなど、積極的に会話しながらワークショップを楽しんだ。

ワークショップを企画したひとり、藤原綾乃氏はこう振り返ります。
「ベネッセアートサイト直島にある作品は、“五感を通じた体験” をテーマにしています。子どもたちにも普段と異なるかたちで音を体感し、新しい世界を発見してほしいと企画しました。実際やってみると、同じアートを前に、一人ひとりがそれぞれの感じ方をするのだと気づき、『なぜだろう?』と考えるなど、日頃接点のない学校が集まったからこそ、より刺激的な経験になったようです。

 また子どもたちは、身振り手振りを交えながらコミュニケーションし、互いの距離を縮めるのが本当に上手でした。小学生から高校生までの年齢幅、障がいのある・なしにかかわらず、人として付き合う、会話する、思いを伝える。それをとても自然にやっていて、見習わなくてはと思いました。小さい頃からこういう体験をすることが大事なのだと痛感します。」

 多様な人びとが暮らす社会で、だれもがよく生きられる豊かな未来をつくっていってほしい。そんな願いを込めて、これからもアートや自然を活用した学びのプログラム開発が続いていきます。

 *写真提供:福武財団、homevideo company

情報

■「Ontenna×豊島 Art Workshop」
2021年7月27日、香川県の豊島で開催。主催:福武財団、富士通株式会社
※国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業の研究支援によるもの。

■公益財団法人 福武財団 https://fukutake-foundation.jp/
主な活動のひとつとして、ベネッセホールディングスとともに、瀬戸内海の直島、豊島(てしま)、犬島などを舞台にした「ベネッセアートサイト直島(https://benesse-artsite.jp/)」を展開する。