2023.10. 6
地方の未来に貢献したい。AIの力で「学ぶ楽しさを知る」体験を
近年、子どもの学習意欲の低下が課題視されていますが、その周辺には、都市部と地方の教育格差など、さまざまな要因が影響しています。
都市部には多くの学校があり、中学受験を選択する人の割合も多く、早期からの教育熱が高い一方、地方では塾なども少なく、学校の統廃合などもあり、子どもたちの学びの場や選択肢は限られています。加えて、子どもたちは少子化による「全入(※1)」と言われる環境の中で「入試のための勉強」を迫られない一方、競争なく育つことは子どもたちの学ぶ意欲にも影響を及ぼします。読解力や計算力など、社会に出たときに必要となる基礎的な学力の習得にもかかわってくるといいます。
ベネッセグループのひとつであり学校向けのICTプラットフォーム「Classi」を提供するClassi社は、AIを活用して生徒個々の学力、習熟度に応じた個別最適な学びの体験ができる機能「学習トレーニング」を活用した学習イベントを熊本県多良木町で実施しました。
イベントを仕掛けた担当者に、イベントに至った経緯と思いを聞きました。
※1)「全員入学」の略。入学希望生徒総数が入学定員総数を下回る状況。
AIを使って復習・補習
夏休みの学力向上を応援
多良木町は、熊本県の南部に位置する町で球磨郡に属し、長い歴史と豊かな自然が共存しながらもその人口は1万人に満たない町です。
そのような中で、都市部との教育格差に課題感をもち、場所や人口規模にかかわらず子どもたちによりよい学びを提供したい、という「たらぎ財団」(多良木町100%出資のもと設立され、人材育成や地域資源を活かした持続可能なまちづくりを推進している一般財団法人たらぎまちづくり推進機構)からの呼びかけと協働によって、学校向けのICTプラットフォーム「Classi」を活用したイベントが開催されました。
イベントは8月の夏休み期間中に行われ、4日間で延べ60人の中高生が参加しました。生徒はタブレットに配信されたテストを受け、その結果に応じて生徒それぞれに適した問題をAIが選んで出題します。30分ほど問題を解き、その後で最初に受けたテストを再度受けると、最初のつまずきを解消できたことが自分でもはっきりとわかるようになります。
Classiの「学習トレーニング機能」は、高校生であっても中学の学習内容でつまずいていた場合には中学の復習問題が配信され、さかのぼって学び直しや生徒それぞれのレベルに応じた復習や補習ができます。そのため、受講した生徒たちは「解けた」という実感を積み重ねていくことができます。
地方の未来に影響を及ぼす
子どもたちの学び
このイベントを担当したClassi社カンパニーカルチャー部の椎葉は、元々日本における地域の課題に興味をもち、さまざまな関係者との対話やアンケートを取った中で地方の学びを取り巻く課題の声を聞いたといいます。「地方の関係者のかたから『競争がない、学ぶ場がなく、公共交通機関などの移動手段も減少、子どもの学びにコミットしてくれる大人のリソースも十分とはいえない場合が多い』『そうした中で育っている子どもたちが社会人になり、基礎学力の不足が職場において育成など課題になっているケースもある』という声を聞き、人口減少がどれだけ地方の子どもたちの教育や、町の未来に影響しているのかを実感しました」
そのような課題を椎葉が感じていた中、ご縁があったのが熊本県の多良木町です。Classiというサービスで子どもたちの「学びたい」という気持ちのスイッチを入れるきっかけの一つをつくりたいという思いから企画・実施に至りました。
個別最適な学びで
もっと「子どもたちの可能性」をひろげたい
「こういったイベントで、子どもたちはどんな反応をするのか正直なところ心配もありました。しかし、目の前で学びを楽しむ生徒たちの姿を見ることできて本当によかったです」と椎葉と共にイベントを運営し、教員としての経験もある前田は語ります。
「参加した子どもたちの感想で『これまでは自分が問題に合わせなければならなかったのに問題の方からこっちにきてくれた』という表現がありました。AIは生徒の理解度に合わせて問題を出題するため、子どもたちは『問題が自分のところにきてくれる』と感じてくれたのです。そのため、2時間というそれなりに長い時間、ずっと集中して勉強に取り組んでいたことが印象的でした」
「『勉強がつまらない』と言う子でもよく聞いてみるとどこかでちょっとしたつまずきがあっただけなのだろうな、と思うことがよくあります。そうしたつまずきや、どこまでさかのぼっていいのかもわからない状態は、『勉強嫌い』や『自己肯定感の低さ』に直結します。Classiを活用してつまずきポイントを見つけ、子どもたちの可能性をせばめるようなボトルネックをなくしていきたい、と改めて感じました」
現地でイベントを統括した椎葉は「今回のイベントの最後に感想を聞いたとき、勉強が好きではないであろう子どもたちも含めて全員が『楽しかった!』と手を挙げてくれた姿が今でも思い浮かびます。Classiは、ミッションとして『子どもの無限の可能性を解き放ち、学びの形を進化させる』を掲げています。子どもたちにはこうした機会を通じて、自分自身には無限の可能性があるのだ、ということに気づいてほしいと心から願っています。どこに生まれたとしても、人生は切り拓く価値がある。子どもたちがそう思える世界を思い描きながらClassiでそれに貢献をしていきたいと思います」
今回の取り組みを起点として「ほかの地域でも子どもたちの『学びたい』という気持ちのスイッチを入れるきっかけの一つをつくる機会を広げていければ」と最後に今後の展望を話してくれました。ClassiのAI技術を使った「子どもの無限の可能性」を広げる取り組みは続きます。
椎葉育美(しいば いくみ)
Classi株式会社 カンパニーカルチャー部 部長
在リトアニア日本国大使館広報文化担当官、外資系企業でPR/マーケティング、ベンチャー企業で人事・広報ブランディング管掌の執行役員等を経てClassiに2019年にジョイン。2020年4月にカンパニーカルチャー部を立ち上げ、社内女性初の管理職としてClassiミッション浸透の責任者を務める。
前田央昭(まえだ ひろあき)
Classi株式会社 カンパニーカルチャー部
高校卒業後、吉本新喜劇に入団。芸能活動と並行し大阪教育大学を卒業、神戸市立中学校理科教諭を8年務め、非常勤講師×教育系パラレルワーカー、任意NPO「越境先生」の立ち上げ後、2023年Classiにジョイン。入社者へのオンボーディング施策や、先生にIT企業を体感していただく研修PJなどを担当し、Classiのミッションを社内外に発信している。