“生きる英語”を身につけさせたい
外部テスト実施だけでなくカリキュラムも見直し
学生がより意欲を持って臨める教育を築く
日本大学
商学部 教授
吉原 令子 先生
学校情報
日本大学・商学部(東京都/私立)
- 設立年:1904(明治37)年 ※商科設置年
- 学生数:約5.3千人
ポイント
- クラス分けに用いるテストを、TOEIC IPから「GTEC」Academicに変更。4技能のスコアをすべて活用して、より精緻なクラス分けを可能に。
- テストの変更に先立って、カリキュラム変更も検討。資格試験に特化した授業ではなく、より広く、ビジネス英語と国際的な教養を身につける科目に見直す。
- 「GTEC」Academicの特長で惹かれたのは、試験時間と問題量のバランス。短い時間で、効率よく英語4技能力を測る点に注目し、導入を決定した。
I.大学の紹介
今回取材したのは日本大学商学部。1889年に設立された日本法律学校を起源とし、115年の伝統を持つ学部だ。輩出した卒業生は計116万人以上で、現在も1学年1200人を超える学生を抱える。ゼミでは、2年次から4年次までの3年間にわたってじっくりと専門領域を学べることが特長とされている。また規模の大きさを生かして、ゼミ対抗のディベートや日本語・英語によるプレゼンテーションの発表を行うなど、学生交流や学生の発信力強化に向けた取り組みも実施している。
日本大学商学部は、従来1年次と2年次の英語科目のクラス分けにTOEIC IPを導入していたが、2020年から「GTEC」Academicにテストを切り替えた。その背景にあるのは、2技能によるクラス分けの限界、カリキュラムとテストの乖離、そして事務的負担の大きさだ。多くの学生を抱える学部ゆえの悩みと、「GTEC」Academic導入の効果、今後の展望について、商学部の英語教育を牽引している吉原令子教授にお話を伺った。
日本大学商学部キャンパス
Ⅱ.取り組みに至った背景
日本大学の「GTEC」Academic導入は、2020年のカリキュラム改定と密接に関係している。まず当時のカリキュラムについて説明する。
必修の英語の授業として用意されていた科目は英語1~4の4つ。1年次は英語1でGrammarとWriting、英語2でSpeakingとListeningの基礎を学ぶ。2年次は英語3でReadingを学びつつ、並行して英語4でTOEICの試験対策の授業を提供していた。英語4については、商学部ということで、TOEICを学ぶ意欲があるだろうと考えてのことだった。そのため、各科目のクラス分けにもTOEIC IPを用いていた。ただ学生はTOEICを学ぶ意欲が強いだろうという考えは実態とややかけ離れていたと吉原先生は話す。
「実は1260人いる学生のうち、毎年かなり高い割合で学生たちが英語4の単位を落としていました。資格試験対策の授業はどうしても対策問題を解くことが中心になってしまい、学生たちから『つまらない』と言う意見をよく聞いていました。学生たちも資格試験は就職などに重要だと理解していても、実際には関心を持ちにくかったようです。カリキュラム改定を見込んで学生に話を聞いたところ、学生たちからは『もっとコミュニケーションができるようになりたい』『他の国の文化を英語で学びたい』『教養的なことを学びたい』と、むしろ教養や発信力を身につけることを望んでいる様子でした」(商学部教授 吉原令子 先生)
もともとTOEIC IPは英語4で学ぶこともあってクラス分けに用いていたテストだ。純粋にクラス分け目的のみで導入していたわけではないので、クラス分けのみで考えるとまた別の問題があったそうだ。
「当時TOEIC IPで学生に受検させていたのはReadingとListeningのみです。このReadingとListeningの総合点で、上から順番に30人×44クラスを区切るのが当時のクラス分けの方法でした。この仕組みだと、たまたまReadingの点数がよかっただけで、GrammarとWritingに対応した英語1、SpeakingとListeningに対応した英語2の両方で上位のクラスに入ってしまう可能性があります。商学部の入学者は入試方式が多様で、かつ併設校からの入学者も多くいます。英語という一点だけを見たとき、実際の実力にはかなりのばらつきがあったのに、2技能かつ1回の試験でクラス分けを行っていたので、実力と乖離したクラスに割り当てられてしまう学生が散見されました。
実際、当時は毎年一部の学生から『授業についていけないので、クラスを変更してほしい』と相談されることがありました。学生数が多いですから、個々の学生に丁寧に対応をすることができませんでした。実力以上のクラスに行ってしまったと不安がっている学生に対しては、今後の授業の受け方をアドバイスしたり、励ましたりしていましたが、本来は4技能の測定をもとに適正なクラスに入れてあげるべきだと思っていました」
こうした背景のもと、吉原先生たちはカリキュラム改定と新しいテストの導入を模索することになった。
Ⅲ.「GTEC」Academic導入の効果
新しいテストとして導入されたのが、「GTEC」Academicだった。何がポイントになって選ばれたのか、吉原先生に伺った。
「「GTEC」Academicの魅力は解答者に合わせて出題が変わり、短い時間で適切に力を測れる点にあります。TOEIC IPとの比較になってしまいますが、TOEICは試験時間が2時間と長めでした。高校から進学したての1年生にとって、TOEIC IPの2時間のテストは大きな負担でした。中には集中力を切らし、試験時間いっぱいまで考えることを放棄してしまう学生も見られました。また、オリエンテーション期間に実施せざるを得ないため、事務局の負担も大きく、試験時間はなるべく短くしたいと考えていました。
その点「GTEC」Academicは、50分で4技能すべてを測れます。問題についてもCAT※1とIRT※2のおかげで効率よく、かつ英語力を広く測ることができ、一石二鳥でした。Testingを研究している他の先生からも、問題がよく標準化されているとお墨付きをいただきました」
「加えて、高校での採用数が多い点も魅力でした。受検するのは学生であって、その学生に馴染みがあるかどうかは大きなポイントです。それもクラス分けに用いるのですから、なるべく学生が実力を発揮しやすいテストを選びたかったのです」
「GTEC」Academicの導入は2020年度。同時に、2020年度から新しいカリキュラムでの英語教育もスタートした。
新しいカリキュラムは、1・2年次の必修科目として英語1~8が用意されている。1年次に履修する英語1・2はGrammar とWritingが中心で、英語3・4はSpeakingとListeningが中心と、従来から大きな変化はない。大きく変わったのは2年次で学ぶ英語5~8だ。英語5・6はOxford University PressのBusiness Resultをテキストに指定し、ビジネス英語を学ぶ科目。英語7・8はGlobal and Cultural Topicsについて学ぶ、教養系の科目になっている。
「英語5・6と7・8はスキル面でも差別化しています。英語5・6はSpeakingやListeningを中心に、プレゼンテーションを活発に行う科目としていて、英語7・8はパラグラフ・ライティングやエッセイ・ライティンを学ぶ科目にしています。どちらの科目もインプットだけではなく、必ずアウトプットを行うことを重視しています。TOEIC対策はやめましたが、やはり商学部としてビジネス向けの英語を身につけてほしいという思いはありますので、英語5・6でビジネス英語やプレゼンテーション能力を学修する形に変更しました。」
なおカリキュラム改定に合わせて、例えば参画点が30%、レポート・課題点が20%、期末テストが50%と割合を決め、成績評価方法も厳密ではないものの、緩やかな形で標準化し、学生たちが不平等を感じないように心がけている。
テストとカリキュラムが変更されてから、取材時点でまだ2年目だが、吉原先生の実感では、クラス分けに悩まされる学生は減っているという。
「『ネイティブの先生が何を言っているかわからない。他のクラスメイトはわかっているみたいで、自分だけ取り残されているような気がする』と不安がる学生は目に見えて減っています。現在のところ、非常勤講師の先生方にも好意的に受け入れられているので、新カリキュラムは順調だと言えるでしょう」
Ⅳ.今後の展望
最後に今後の展望として、「GTEC」Academicのさらなる活用について吉原先生に伺った。
「今、英語1~8の各44クラスを能力別にA~Eレベルと便宜上分類しています。この分類を活用して、各レベルの「GTEC」Academicのスコアを分析し、レベルごとに4技能英語力の定着度が把握できる資料を出す予定です。レベル別に技能ごとの定着度がわかれば、非常勤の先生方も指導がしやすくなると思いますので。2022年度の前期には、レベル別に4技能英語力の定着度をまとめた資料を各教員に配布することが目標です。また、学生自身にもスコアを活用してもらいたいので、1年次の初回授業で教員からスコアの説明を行うなど、振り返りの機会も設けたいと思っています」
※1 CAT(Computer adaptive Testing)。回答に応じて出題が変わるテストのこと。
※2 IRT(Item Response Theory、項目応答理論)。統計に基づく評価項目で受験者の能力を判定する試験理論。
お話を伺った方
商学部 教授 吉原 令子 先生