CASE STUDY

ディスラプションウォッチで各事業にマッチした業務提携を。シナジーを創出しつつ、リターンを確実に得る生態系づくり

「Digital Innovation Fund(DIF)」は教育・生活・介護領域やDX関連ベンチャー企業とデジタルの力で共創するための投資ファシリティだ。目指しているのは既存事業・サービスのDX推進と新規事業の共創である。自社の事業内容と関連性のある企業に投資し、本業との相乗効果を得ることを狙ってDIFでベンチャー企業やスタートアップへの出資・支援を進めている髙木月人に話を聞いた。

髙木 月人

Digital Innovation Fund

新卒で大手ビールメーカーに入社し、制度会計に携わる。税務申告や会計基準の導入プロジェクトを担当。その後、経営戦略部に所属してPMOの役割を担い、ホールディングスでIR活動に従事した。
ベンチャーキャピタルに転職後、ミドルオフィスとして、スタートアップの投資先へ間接的な支援、ポートフォリオ管理などファンド全般からバックオフィスの業務まで幅広く対応する。
ベネッセに移り、Digital Innovation Fundでキャピタリストの役割を担い、ベンチャー企業やスタートアップを中心とした投資の体制づくりから実行まで行う。プライベートでは4年間、ネパール・カトマンズの子どもたちへ教育ボランティアをしていた経験を持つ。

ISSUE(課題)

テクノロジー進化への対応と最適な生態系の構築

課題は2つあります。(1)速すぎるテクノロジーの進化に対応すること、(2)マーケットや業界で最適な生態系を作ることです。

一つ目の課題は、テクノロジーの進化が速すぎるためにリソースが足りていない状況が発生していることへの対応です。自分たちでできる範囲には限界があるので、他の企業と一緒に取り組んだ方が早く環境変化に対応していくことができます。

二つ目の課題は、ベネッセの事業の分野である教育や介護・生活は社会課題そのものであり、1社ですべてを解決することは難しいということです。いかに多くの企業と最適な関係を構築できるかが大切です。競合が多いということは逆に言えば社会課題解決のために手を組める企業が無数にある環境だとも言えます。

ベネッセは、幼児からシニアまで、人生のあらゆるステージで活用していただける幅広い事業・サービスを展開しています。それぞれの事業と内包される様々なサービスごとにスタートアップに対してどう向き合いたいか、スタンスが異なります。各々の事業特性や戦略に合わせて生態系を拡大していくことが重要だと考えています。

SOLUTION(ソリューション)

ディスラプションウォッチを活用した見極めと積極的なアプローチ

DIF独自の「ディスラプションウォッチ」を毎年更新しています。ディスラプションウォッチでは、将来的に競合になりそうな企業や現時点で競合となっている企業などを2000社弱リストアップしています。

これは簡単に言うと、提携候補先リストです。さまざまな情報から「どこのマーケットや企業に注目が集まっているのか」が分かるようになっています。テクノロジートレンドに限らず、ベネッセの事業の中で何を伸ばすべきなのか、競合に押されやすい部分はどこなのかを見極めることが可能です。その情報を分析し、事業戦略を練ることで、より飛躍的な活動ができると考えています。

提携の候補先を決めたら、企業同士のつながりをつくるため早めにコンタクトを取ります。そして、双方合意できれば出資をして仲間を増やしていきます。場合によっては将来的にM&Aにつながるケースも出てくると思います。

RESULT(結果)

10社の出資先を選定。シナジーの創出と利益の獲得

5年で50億円の予算を決めて動いています。すでに10社への投資を実行し、提携によるシナジー創出を進めています。例として実際に資本業務提携を締結した投資先を3社ご紹介します。

1高度IT人材育成ブートキャンプを提供する「Code Chrysalis Japan」

「Udemy」とクロスセルすることでお互いに相乗効果が生まれています。今後さらなる展開が期待できる企業です。

2音声認識に強い「Hmcomm」

ベネッセはto Cのビジネスが多いため、顧客の声が届くコールセンターが重要です。AIロボットによるオペレーター作業の代行をし、DX化を図りました。また、顧客の声を定量化して分析するツールなども共同開発しており、シナジーが生まれています。

3ワンストップDXソリューションを提供するコンサルティング会社「アルサーガパートナーズ」

幅広い事業領域をもつベネッセでは、様々な経営/事業課題解決のため半年~1年でプロジェクトを組成し、専門的な知見をもつ人財を集めて社内コンサルティングチームを組成、課題解決にむけて事業部と一枚岩となり推進しています。数十件のプロジェクトが同時進行しているのですが、アルサーガさんには一部のプロジェクトにPMOをアサインしていただき、円滑に進めていくため尽力いただいています。アルサーガさんにとってもダイレクトに売り上げにつながるため、お互いにメリットのある業務提携です。

どの投資先もDIFが横断的に舵を取りながら、局所で非常に良い取り組みができていると感じています。

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

今後の目標を教えてください。

一般的なCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)では、ファイナンシャルリターンとストラテジックリターンの2つに目的が区別されますが、我々は両立を目指しています。つまり、全案件でシナジーが生まれ、双方にメリットのあるバリューアップにつながる。かつ、ファンドとして金銭的なリターンも得られている状況を実現させることが目標です。

通常、投資した後に自身でその投資リスクを低減させることは不可能です。しかし、CVC投資では売り上げアップにつながるスキームを組んだり利益率改善の支援をしたりすることで、投資先の企業価値を高める取り組みが行えます。投資リターンの成否のリスクコントロールまで想定できる企業に投資して、ファイナンシャルリターンとストラテジックリターンの両立を実現したいです。

これからチャレンジしたいことは何ですか。

個人的には、高校生や大学生向けに「起業家になるためのビジネス教育を行う事業」を立ち上げたいと思っています。起業するためのノウハウを教わる機会はアメリカやスウェーデンなど海外では仕組み化されていますが、日本では十分に仕組み化されているとは言えません。教育事業のリーディングカンパニーだからこそできることがあるように思います。起業家を増やして日本の経済の新陳代謝を促進し、社会貢献ができたら面白いだろうなと思います。

MORE
CASE STUDIES