CASE STUDY

事業の進化に合わせてシステムアーキテクチャを最適化。システムの安定化とコスト削減に挑んだシニアアーキテクト

デジタルサービスをDX型の商品やサービスに発展させていくためには、システムやインフラのアーキテクチャ最適化が不可欠だ。そうでなければ、DX時代に必要なローコストでスピーディーな競争力を得られない。40年以上にわたってプログラムとコンピューティングに打ち込んできたシニアアーキテクトの植田省司に、そのビジョンを聞いた。
  • インタビューは2022年に実施

植田 省司

Digital Innovation Partners
インフラ・テクノロジー推進部 部長

ソフトウェアのエンジニアとして「進研ゼミ」のデジタルサービスの開発や「進研ゼミ」で導入した専用タブレット端末のOS開発などに関わる。中学校1年生から始めたプログラミング歴は40年以上。高校時代にはプログラムを組み、大学でロボットの制御ソフトウェアを書く。大学卒業後はシステム開発系のベンチャー企業でエンジニアリングの経験を重ねてきた。

ISSUE(課題)

ミライシードの設計とアーキテクチャ最適化にシニアアーキテクトとして取り組む

現在の主な担当業務は2つあります。1つは「進研ゼミ」のデジタル学習サービスや小中学校向けタブレット学習ソフト「ミライシード」の設計、そしてもう1つはDIPとしてこれから取り組もうとしている、当社のITインフラストラクチャーのアーキテクチャ最適化の準備。これは2022年度から本格始動しましたが、大きな改革を行う予定です。

課題(1)「ミライシード」

ミライシードとは、小中学校で児童・生徒たちがタブレットを通して利用する学習支援ソフトで、2014年から提供を開始しています。一方、2019年に文部科学省が「すべての児童・生徒に1人1台、学習用端末とネットワーク環境を用意して、個別に最適化された教育を実現する」学習環境を目指して打ち出したGIGAスクール構想が、コロナ禍で前倒しになり、「ミライシード」の利用者数も短期間で急激に伸びました。そのためにサーバの負荷が急激に上がり、性能問題が浮上しました。

課題(2)ITインフラストラクチャーのアーキテクチャ最適化

「進研ゼミ」ではWeb教材の導入など早くからデジタル化が行われてきましたが、その時々のサービスニーズに応じることが精一杯でした。例えて言えば必要に応じて部屋の増改築を繰り返した木造建築で、サービス改善がなかなか難しく、つい「更地から家を立て直すか」という議論がされる状況でした。それでは蓄積が活かされませんし、開発コストもかさみます。

SOLUTION(ソリューション)

サーバーの見える化とオンプレミス環境からクラウド環境への移行

ソリューション(1)ミライシード

対応のポイントはサーバのオブザーバビリティ(可観測性)。何が起きているのかの詳細な見える化でした。それまでもそれなりのモニタリングはしていましたが、どうにも解像度が足りない。でも性能が劣化したり、システムにトラブルが発生したりしてから気付くのでは遅いのです。生徒たちの授業が止まってしまいますから、事前に検知して対応したい。しかし、見えない事に対して対応する事はできない。そのため、サーバの状態を徹底的に可視化するシステムを先ず導入しました。可視化された状態で細かな調整を行いながら、アーキテクチャの改善を行いました。かつてないハードワークになりましたが、1年必要とも言われた対処を約3ヶ月で終えることができました。もし対応に1年かかっていたら、サービスの信頼が大きく失われていたかもしれないと思います。

ソリューション(2)ITインフラストラクチャーのアーキテクチャ最適化

今から5年前、環境変化にも柔軟に対応できるプラットフォーム基盤作りに取り掛かりました。技術的には4TBものデータの、オンプレミス環境からクラウド環境への移行が必要でした。これは、抜本的な変更でしたがスムーズに進めることができました。それ以後は、その基盤の上でシステムを改訂していくわけですが、更新性や拡張性まで盛り込んだ設計になっていますので、サービス改善がタイムリーに提供可能になっています。

RESULT(結果)

ランニングコストを1/7に削減し、安定性の確保も実現

「進研ゼミ」の事例では、ランニングコストを約1/7にまで削減できました。これは単にクラウド環境に移行したということだけでなく、クラウド化する際にいろいろな工夫をしているからです。たとえばオンプレミスサーバの状況を細かく分析して課題を明確にし、その上でシステム改善を行った上でクラウドへ移行しました。

また、データ移行はとても難しいミッションです。今回、かなり大規模な移行を実施してほぼ障害なく終えられたことは大成功だったと思います。「ミライシード」についてもアーキテクチャの最適化に取り組むことによって、安定性の確保だけでなく、運用コストを大きく抑えることに成功しています。

今回導入したサーバ監視サービスによるオブザーバビリティの向上には永続的な効果があります。何が起きているかを可視化して皆で共有し、見えなかった課題が見えるようになった世界の中で皆が動き始めることで、事態は的確にスピーディーに改善されていきます。

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

PERSPECTIVE

これまでの実績を踏まえて、次にインフラ領域のアーキテクチャ最適化に臨まれるわけですね。

「進研ゼミ」も「ミライシード」も、数年前からアーキテクチャの最適化に取り組んで来ましたが、アプリ領域だけでは改善しきれない部分も多いのです。次に必要なのは、インフラストラクチャーのアーキテクチャ最適化です。今、このミッションに着手するための課題の可視化や事業計画の策定を進めているところです。

こうしたインフラやコンピューティングは企業競争力の源泉になるものです。私は技術ですべてが解決するとは思いませんが、課題の多くの部分は解決できるとも思っています。アプリやインフラのアーキテクチャを最適化していくことで、サービス提供までの期間を短くし、将来的な変更を容易にすることができる。それはすべてベネッセの競争力の強化になるとともに、お客様にも価格面でベネフィットを還元することが出来ます。私は自分の技術を通して、そういう形で事業発展、ひいてはお客様一人ひとりの学びをサポートすることが出来ると考えています。

アーキテクトにとって、ベネッセのDX推進のやりがいとは?

ITの様々なレイヤー領域を経験する中でつねに興味があったのは、コンピュータとは何か?という部分。コンピュータはどうやって動いているのか、どういうアルゴリズムで処理されているかという点。そしてもう1つ、コンピューティングがどのように社会を変えていくのかということです。コンピュータの本質を見極めるという視点は、今に至るまでアーキテクトとしての自分の根底にある部分だと思います。

いま私たちが本気で取り組もうとしているクラウドの高度活用や、インフラ領域のソフトウェア化、いわゆるIaC(Infrastructure as Code)のような領域は私たちのようなユーザ企業ではまだ事例としては少ないと思っています。インフラ領域をソフトウェア的に開発できるようにすることは、エンジニアにとってはとても魅力的なテーマなのではないかと思います。

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