Benesse 「よく生きる」

EPISODE 人と社会の
「Benesse(よく生きる)」
をめざして

ベネッセ教育総合研究所は『未来につながる学びのあり方』を社会とともに考え続ける
小学生中学生高校生分析専門組織教育・学びの研究

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生

※「ベネッセ教育総合研究所」は子育て・教育に関わる調査研究をベースに、社会全体で『より豊かな未来の実現につながる学びのあり方』を考えるための発信を行っています。
ベネッセ教育総合研究所は、国内外の研究者・教育現場と連携した多くの研究に取り組んでいます。そのひとつが東京大学社会科学研究所との「子どもの生活と学び 共同研究プロジェクト」です。2015年から毎年、約2万1千組の同じ親子の成長を追跡する他に類のない調査を行い、学会や教育行政、学校などからも注目されています。 主席研究員・木村治生に、同研究所の活動のねらいと調査結果のトピックを聞きました。

得られた知見を広く共有することで、
調査研究を教育現場にも活かす

はじめに、ベネッセ教育総合研究所の活動内容を教えてください。
木村
1980年に、ベネッセの前身である福武書店の「教育研究所」として設立されました。時代とともにいくつかの変遷はありましたが、2013年に現在の「ベネッセ教育総合研究所」となりました。約40名の研究員が所属し、民間の研究機関としては大きな組織です。子どもや保護者、教員に関する調査データや研究結果は、広く一般に公開して社会で活用されるとともに、ベネッセの中でこれからの子育て・教育や事業のあり方を考える材料として使われています。
調査データや報告レポートを一般に公開している理由は?新聞やテレビ、Webのトピックスで紹介されることも増えていますね。
木村
そうですね。教育関係者や保護者など、できるだけ多くの方々のお役に立ちたいという思いから、ホームページで調査結果を発表し、いろいろなメディアで取り上げていただけるよう広報しています。また、ローデータを研究者に公開して学術的な貢献をすることで、子育てや教育のあり方を考える新しい研究が多く生まれることも期待しています。
社会全体で知見やデータを活用していこう、ということでしょうか。
木村
はい。各地の先生など教育現場からのご要望に応えて、調査結果を基にした研究会などもよく行っています。学校での優れた取り組みや先生方の指導の工夫を教えていただき、データを参考にしながら意見を交わすこともあります。

また、行政や研究機関などから意見を求められることも多くあります。私たちは民間の研究機関ではあるものの、全国の状況を見聞きして、豊富なデータを持ち具体的な提案をするところを強みとしています。そういった点から、各所に関心をもっていただいているのだと思います。

調査データは実態把握に用いるだけでなく、
「学びをよくする」にはどうするかを考えるために分析する

最近の事例では、東京大学との共同研究「子どもの生活と学びに関する親子調査2022」が注目されていますね。
木村
調査結果を発信したところ、自治体や学校の先生方から、生徒に勉強の仕方を考えてもらう素材にしたいなどの声をいただいています。

この調査は小1生から高3生までを対象として、約2万1千組の同じ親子を2015年から追跡しています。この規模で親子の成長を追跡する調査は、世界的に見ても他にありません。生活と学習だけでなく、人間関係や価値観など幅広い内容をたずねていて、豊富なデータが得られています。

さらに、東京大学社会科学研究所と共同で調査を行うことで、学術的な信頼性を保つことも配慮しています。今は小学生から高校生卒業までの追跡研究ですが、子どもの成長は0歳から始まります。また、学びの成果は大人になってから結実することも多くあります。そのため将来的には、0歳~30歳くらいまでを追跡できるような研究にしたいと考えています。
「上手な勉強法がわからない」子どもが増えているという結果が、よく取り上げられていますが・・・。
木村
前回調査の発表(2022年4月)では、コロナ禍で子どもの学習意欲が低下しているという結果を示しました。この傾向は続いていて、学習意欲が高まらない状況はポストコロナにおける課題の一つです。
高校生では7割以上の子どもが勉強法の悩みを抱えているほか、特に小学生で勉強法の悩みが増えている。
木村
今回の発表ではそれを受けて、「勉強のやる気が起きない」状況をどうすれば改善できるか、解決策を探るための分析を試みました。「やる気を上げる」というのはなかなか難しいので、それであれば、行動から変えてみるのはどうだろうか、つまり、自分に合った勉強法を見つけてやり方を変えてみたら、学習意欲も上がるのではないかという仮説をもってデータを分析したのです。

すると、1年間で上手な勉強法が「わからない」から「わかる」に変化した子どもたちは、その1年間で学習意欲も高まり、学習時間が増え、成績も上がることがわかりました。
学習方法が「わからない」から「わかる」に変化した群(「理解に変化」群)は、35%が「学習意欲が上がった」と答えている。
行動の仕方(上手な勉強の仕方)がわかれば、「やる気」も上がるということですね。
木村
その通りです。そして、保護者や先生たちには、子どもが自分の勉強の仕方を考えて実行できるように、次のような役割を担ってくださいとお話ししています。

・1つめは、子どもの「安全基地」になり、困ったら守ってくれるという安心感のなかで試行錯誤できるような環境を整えることです。勉強でできなかったことを責められるのではなく、どうしたらうまくいくのかを考えられる環境が必要です。
・2つめは、「動機づけ」です。子どもの関心に寄り添って「どんなところが面白いの?」と好奇心を高めたり、「将来はどんなふうになりたいの?」と学ぶ意味や目標をいっしょに考えたりといった働きかけをすることが大事です。
・3つめは、「メタ認知」を高める働きかけです。メタ認知とは、自分を客観的に見る力のことで、自分に合った勉強方法を見つけるためにはまず、自分の勉強の仕方を客観的にとらえることが必要です。「何を勉強する?」「いつやる?」「どうやってやる?」「やることを書き出してみようよ」など、子どもが自分の状況を考えて自己決定できる働きかけが有効です。


自分で上手な勉強の仕方を見つけ出す経験は、大人になってから生活や仕事の課題を解決しようとするときに役立ちます。私たちが提供する教材やサービスも、学習者である子どもが自分で学習方法を身につけられるようなものにしていきたいと考えています。
なるほど。具体的に、ベネッセの教材やサービスづくりにはどんなかたちで関わっていますか。
木村
私たち研究員は、社内講演会や勉強会に登壇したり、社内サイトに解説動画を公開するなどして、社員がより良い教材やサービスを考える材料を提供しています。教材開発の際に調査データを参考にしながら意見交換したり、保護者や教員の皆さんに発信する情報をいっしょに検討したりすることもあります。

例えば、子どもが学びで成果を上げるには、自分の力でしっかりと考えることが大事です。また、子ども自身が学びの意味を考え、高い意欲を持って学習に取り組む必要があります。そうした教材やサービスを作るにはどうしたらよいか、開発担当者と一緒に議論します。

子どもたちが未来の社会で活躍するためには、単に知識を増やすだけでなく、思考力や表現力などの力も求められます。テストの点数を上げることは必要ですが、人生を切り拓くのに必要となる力とは何かといったことも考えて教材やサービスを開発できるように努めています。

子どもたちの「Well-being」とは?
子どものことを社会全体で考える仕組みをつくりたい

これからめざすところを教えてください。
木村
ベネッセ教育総合研究所がめざす研究の目的は、ベネッセの企業哲学である「Benesse(よく生きる)」と同義である「Well-being」を実現するためにどうすればよいかを研究し、理論として確立していくことです。

「Well-being」の実現には、「学び」がとても大切です。これからは子どもだけではなく大人も対象に、学びの中でどのような資質・能力を高めればよいのか、それが「Well-being」にどうつながっていくのかをエビデンスで示していきたいと思います。

そして、研究結果に関心を持ってくださる研究者や先生方、保護者の皆様とともに、そのエビデンスを使ってよりよい子育てや教育のあり方を考えるネットワークを広げたいと考えています。子どもにかかわる多くの方が一緒になって考えることができれば、ベネッセにとって大きな資産になりますし、社会全体にとってもプラスになるはずです。

ともに考えることから得られるものは、たくさんあります。できるだけ多くの人とかかわりながら、語りあう基盤(エビデンスとネットワーク)をつくることで、研究の社会的価値を高めていきたいと思っています。
木村治生(Haruo KIMURA)
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員、調査研究室長
2000年ベネッセコーポレーションに入社。子ども、保護者、教員を対象にした調査や学習理論に関する研究を行い、教育事業の教材・サービス開発を支援している。これまで、東京大学客員教授や行政の教育施策検討委員などを歴任し、これからの子育て・教育のあり方について提言を行う。2015年からは東京大学社会科学研究所と連携して、2万1千組の親子の成長を追跡するパネル調査を立ち上げ、研究成果の普及に努めている。

撮影:デザインオフィス・キャン ※ご紹介した情報、プロフィールは2023年5月取材時のものです。

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