EPISODE
人と社会の
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をめざして
子育て世代の金融・健康のリテラシーを上げる。生活情報誌『サンキュ!』が提唱する健康投資とは
社会課題保護者
ベネッセコーポレーションが発行する生活情報誌『サンキュ!』。雑誌のほかにも、月間約2,000万人にリーチするWEBニュースやLINE・インスタグラムなどのSNS、1,000人以上の<サンキュ!アンバサダー>が活躍し、「くらしをアップデート」するためのさまざまなアイデアを日々発信しています。(※)
そんな『サンキュ!』が提唱しているのが、先々病気にならないようにお金と時間を使う「健康投資」。読者の情報ニーズの変化、その背景にある社会課題をもふまえた着目の理由を、編集長の山本沙織に聞きました。
※2024年12月時点
共働き世帯や男性の読者も増えるなか、節約から投資へニーズが変化
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- 「健康」と「投資」、この2つを結びつけた背景には読者層の変化もあったとか。具体的に教えていただけますか。
- 山本
- 約30年前の創刊時は、読者の過半数が専業主婦でしたが、いまは読者のおよそ7割が共働きです。デジタル版の雑誌読み放題サービスでは男性の購読者が3割を占めます。読者の内訳として未婚層やDINKS層が3割を占めるなど、「主婦むけ生活情報誌」と言われてきた『サンキュ!』も、読者層はかなり多様化しています。
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- お届けする情報も変化していますか?
- 山本
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昔から『サンキュ!』を知っている方にとっては「サンキュ!=節約情報」のイメージが根強くあるようです。しかし共働き世帯の読者が増えたことで読者の世帯年収も上がり、情報ニーズが変化し、誌面からは「節約」の文字が消え、「資産を増やす」というアプローチに変わってきました。最新号では資産一億円を目指す「億り人企画」が人気です。
WEB上にたくさんの無料情報があふれている今、あえて雑誌という有料のメディアを選ぶ層は学ぶことが好きで、生活するうえで工夫や努力をいとわない人たちです。そのため、中長期的な視点で、今と未来を豊かにするような情報をお届けすることを心がけています。
「貯蓄上手さんは健康投資もしている」事実から、中長期的な自分への投資提案へ
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- 今と少し先の未来を豊かにする提案の一つが、「健康投資」なのですね。
- 山本
- 「資産を増やすためのお金特集」が人気コンテンツですが、今提唱しているのは心身の健康のため自分に投資をする「健康投資」です。共働き世帯の読者が増え、仕事に育児、家事とマルチタスクを抱え、原因不明の心身の不調に悩む読者がとても多くなったように感じています。何かしらの不調を抱えながらも自分をケアする時間がないという悩みの声も、数多く届くようになりました。
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- 読者に長年寄りそってきたからこその気づきですね。
- 山本
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生活を豊かにするには「お金と健康」の2つが欠かせないですが、毎月全国のご家庭に取材を行っていると、やりくりが上手で生活スキルの高い人ほど、病気になったときのお金や時間の損失も考えていて、体力づくりや健康情報の収集、定期健診などの対策をされているとわかってきました。
病気になると通院や医薬品にお金がかかるし、仕事を休めば収入にも影響があります。病気を未然に防ぐことは、結果として無駄な時間や出費を省くことにもつながる合理的な選択とも言えます。コロナ禍で健康への意識が高まってきたこともあり、『サンキュ!』としてはお金と健康を紐づけながら提案していくのがよいのではないかと。それで「健康投資」を提唱するようになりました。
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- 特集などで「健康投資」を扱うときに、気をつけている点はありますか?
- 山本
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健康に関心はあっても、ハードルが高いものは忙しい毎日で取り入れることが難しいですし、基本、人はMUSTでなくFUNに心が動くので、すぐにやれそうなことを楽しくできるように取り上げています。たとえば、本当はみんな「食べたい」と思っているけど食卓にあがりにくい魚料理は、その理由を分析し、グッズやテクニックで面倒を解決する別冊付録を作ったところ、
予想以上に大きな反響を得ることができました。魚の魅力を伝えたいメーカーさんたちとコラボした福袋プレゼント企画も実施して、おおいに盛り上がりました。
また、何をいうかより誰がいうかも、とっても大事です。たとえば自分と同じように子どもがいて大変な人が、整ったキッチンで2台の炊飯器を使い、白米に加えて健康のために玄米や甘酒を作っているというような実例記事は、反響がありました。「自分もできるかもしれない」という気持ちになってもらうのに半歩先のロールモデルのアイデアを発掘するのは『サンキュ!』の得意ワザです。また、治療費が高い歯や目のケアについても、将来おこることを金額で明示し、定期的に健診に行く提案企画も人気がありました。健康全般というよりも、誰もが身近に誰もが身近に感じる事柄にしぼり、支出にからめることが反響を呼んだ理由だと思います。健康とお金を結び付けることでやや遠いと思う健康対策も「自分ゴト」になります。こうした、人の心を動かすツボをさまざまに押しながら企画を作っています。社会で働く女性が増え長い目で考えて合理的に行動する人が増えてきたことも、こうした提案に影響しています。
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- 『サンキュ!』では2023年から「女性の健康とストレス調査」を実施していますね。これも「健康投資」を考える一貫ですか?
- 山本
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「健康投資」の提案の裏付けとなるものを示したいと考え実施したのが、「サンキュ!女性の健康とストレス調査」です。
2023年の調査からは「ストレスを感じている人ほど、病気ではないが健康でもない“未病”状態にある人が多く、夜更かしや暴飲暴食、買い過ぎといった悪習慣の傾向」が見られるという結果が出ました。
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- ストレスを感じている人が7割を越えているのですね! ほかにもストレスを感じている人とそうでない人で違いはありますか?
- 山本
- 2024年の調査では、ストレスを感じていない人の79%が「活動と休息にメリハリがある」と回答しています。休む=なにもしないと考えがちですが、ストレスを感じていないと回答している人は、休むことを肯定的に考え、積極的に楽しむという傾向がみられました。なかなか休めないという方にはこういった考え方もあるのだと知っていただき、ヒントになればと思います。
まずは「自分を大切にする」こと。それが家族の幸せの好循環につながっていく
- 山本
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今はSNSの影響もあってさまざまな人の価値観に触れることができます。創刊当時はある程度固定化された「母親はこうあるべき」という像が読者にも世の中にもあったように思いますが、今はいろいろな生き方があり、思い通りにならないことだらけの日々でも、自分なりの「自分軸」をもって生きていきたいという人が増えています。
そういう方たちに、育児や仕事もがんばるうえで、ベースとして自分を大切にすること、自分自身の心身の健康にも意識をもつことがまず大事だとお伝えしたいと思っています。それが、ひいては家族や周りの人の幸せにつながり、好循環をつくります。これは多くの生活上手さんを取材したなかで編集部が確信していることです。自己犠牲はほどほどに「私が笑えば家族が笑う」という『サンキュ!』のメッセージをこれからもお届けし続けたいと思っています。
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- 雑誌やSNSなど伝える手段は多様になりましたが、変わらずに大事にしたいことは?
- 山本
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『サンキュ!』の使命は、進研ゼミやこどもちゃれんじを受講する親世代の金融や健康のリテラシーを上げることだと思っています。親が幸せでなければ、子どもの教育に真摯に向き合うことは難しいと長年取材で目の当たりにしてきました。健康とお金という家庭の幸せの基盤ともなる情報を、お客さんのインサイトに寄り添って提案することを大事にしています。
情報が氾濫し、忙しい人が多い現代では、専門性の高い情報をわかりやすく表現すること、その情報を時間をかけずに得られるようにすることが求められています。雑誌だけでなく、動画やSNSなど数多くのメディアのタッチポイントで、家族の幸せをつくることを『サンキュ!』ならではの価値として伝えていけたらと考えています。
- 山本沙織(Saori YAMAMOTO)
- ベネッセコーポレーション
『サンキュ!』編集長
ブランドマーケティング室室長
水産庁さかなの日推進委員
撮影:デザインオフィス・キャン ※ご紹介した情報、プロフィールは2024年12月取材時のものです。