EPISODE
人と社会の
「Benesse(よく生きる)」
をめざして
「授業が楽しい!」と思えるように。DXでコミュニケーションによる学びを活性化するICTソフト「ミライシード」の今
小学生中学生学校教育
先行きが不透明で将来の予測が困難な時代に、生き抜く力を身につけるために、子どもたちの学びの環境は大きく変わろうとしています。子どもが主体的に参加する対話型の授業や、多様性を認め合い、一人ひとりの個性に寄り添った個別最適な学びが求められています。このような環境の中、ベネッセコーポレーションが提供する小中学校向けタブレット学習ソフト「ミライシード」(※)は、教育の現場に確かな変化をもたらし始めています。DX(デジタルトランスフォーメーション)担当として開発に携わる田中に、話を聞きました。
※ベネッセコーポレーションの義務教育向けICTソフト「ミライシード」
「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実から教育効果の可視化まで、ひとつのソフトで完結することをめざす。自動で学習データの一元管理が可能。
授業シーンを描きながら、徹底したユーザー視点にこだわる
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- タブレット学習ソフト「ミライシード」でどのような授業が実現するのでしょうか?
- 田中
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ベネッセの義務教育向けICTソフト「ミライシード」には、いくつかのサービスがあります。今回開発した「オクリンクプラス」は、これまでの授業支援ソフト「オクリンク」と協働学習支援ソフト「ムーブノート」の機能を統合したものです。これまでは先生と子どもが1対1でやり取りする機能で、「先生とクラス全員」や「子ども同士」でのコミュニケーションができない点が課題でした。
そこで、この4月に提供を開始した「オクリンクプラス」では、従来の二つの機能を統合したうえで、授業の学び合いが活性化するように新機能を取り入れました。先生と子どもたちが、誰がどんなものを提出したのか一覧化して見られるようにしたことにより、1対多数のコミュニケーションも可能になったのです。
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- どのようなプロセスで機能を検討していったのでしょうか?
- 田中
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実は当初、たくさんの機能を追加するとよいのではないかと考えて、企画していました。
でも私たちは、先生でも、児童・生徒でもないので、本当に必要な機能なのかがわかりません。そこで、いつも「ミライシード」を通して先生や学校を支援している事業部と一緒に、先生方へ徹底的なヒアリングを行いました。そうすると、「デジタルが苦手な先生には負担になるのではないか」、「中学生は使えるけど、小学校低学年には扱いが難しいのではないか」など、実際の使用シーンでの課題が見えてきました。そこで必要なものだけを残し、できるだけシンプルなものにしようという方向に変わっていきました。
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- いろいろな立場で参加する複数の開発メンバーの意見を調整するのは、大変だったのでは?
- 田中
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今回の開発にあたっては、先生や学校を支援している事業部と社外の専門スタッフの約30名でプロジェクトチームを組みました。DIP(Digital Innovation Partners)部門から参画した私とメンバーは、事業部門が企画したものをシステム開発やデザイナーに渡すための「通訳」の役目を担っていました。
「ユーザー目線で」と言いながら、ユーザーが本当にほしいものではないものが実装されそうになっている場合は、「それって、子どもにとってどうなんだろう?」という問いかけを常に行うようにしました。そうすることで、事業部門もシステム部門も全員が、ユーザーが実際に使用する場面をとことんイメージするようになり、目線が同じになっていったと思います。
想定していなかった活用法を、主体的につくり出す子どもたち
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- 実際の授業では、どのように活用されているか、手応えはどうですか?
- 田中
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「オクリンクプラス」の中の「提出BOX」に子どもがそれぞれの意見を提出すると、先生もクラスメイトも意見を一覧で確認することができます。例えば「あの子はこんな感想を書いたんだ」「自分もこういうふうに書いてみよう」と、クラスみんなで、学びを高めあっていけるというお声をいただいています。
さらに、リアルタイムにカード(成果物)にリアクションやコメントができるチャット機能で、子どもたちがお互いの意見にリアクションする、わからないことをお互いに助け合うなど、子どもたち同士で学びあうコミュニケーションが活発になった、というお話も伺っています。私たちが想定していなかった利用法なので、使い道を広げてもらえてうれしく思っています。
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- 子どもたちの会話が、タブレット上で活性化しているのですね。
- 田中
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はい。もともとは、子どもたちのコミュニケーションはオフラインが中心で、タブレット学習はそれを助けるためのツールだと考えていました。ですが、実際、「チャット機能」を会話だけでなく、「いいアイデアは『チャット』にためていこうよ」と子どもたちが自発的に提案し、使い道を広げるケースも生まれています。授業の現場で「オクリンクプラス」の活用法が進化していることを感じています。
先生から一方向に与えられるのではなく、子どもたちが自発的に計画を立てて授業をつくり上げていくような場面に対応できるよう、子ども同士で助け合える機能がこれからの時代には必要なのかもしれません。
子どもたちが「楽しい!」と思えるような、学びのDXを
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- これからさらに追求したいことを教えてください。
- 田中
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エンドユーザーである子どもの目線を意識して開発を進めていきたいです。子どもたちにとっては、学校の授業で使うものが、初めて出合うデバイスツールになる可能性もあります。そこで「使いづらい」と感じさせず、使い方で迷わずに学習ができるよう、子どもが使いやすいものをつくりたいと思います。
また、学校の先生方や、子どもたちだけではなく、保護者の方々や教育にかかわるすべてのみなさまから「学校の授業といえば、ミライシードの『オクリンクプラス』」と信頼していただけるようにしたいです。
実際、小学校を訪問した際に、「『オクリンクプラス』になったら、みんなで編集できるから、授業がすごく楽しくなったよ!」と子どもたちから声をかけられ、この仕事に携わっていてよかったと心から思いました。これからも子どもたちの視点で、「授業が楽しい!」と感じてもらえるようにアップデートしていきたいですね。
- 田中 しずか(Shizuka TANAKA)
- インターネット関連の大手サービス会社にて、UXデザイナーとして全社横断の新サービスの立ち上げ、フルリニューアルなどを経て、2022年ベネッセコーポレーションに入社。UI/UXコンサルタントとして新事業支援プロジェクトに携わり、UI/UXデザインの責任者を担う。
撮影:デザインオフィス・キャン ※ご紹介した情報、プロフィールは2024年6月取材時のものです。