Benesse 「よく生きる」

EPISODE 学びを支えるストーリー 将来必要な力が
身につく

「課題解決力」を育てる読書
毎月約60万人の小中高生が利用
「電子図書館まなびライブラリー」
小学生中学生高校生進研ゼミ
右:「電子図書館まなびライブラリー」 
責任者 
五木田 隆
「進研ゼミ」の編集長を経て、2015年に「まなびライブラリー」を立ち上げ、責任者を務めている。
左:「電子図書館まなびライブラリー」 
コンテンツ企画担当 
和泉 より子
<こどもちゃれんじ>「進研ゼミ」、通販事業に携わった後、2019年から「まなびライブラリー」のコンテンツ担当として、パートナーである出版社と交渉を行っている。
2015年にスタートした電子書籍サービス。「進研ゼミ」会員は受講費内で利用でき、選び抜かれた約1,000冊の書籍と約20本の動画をチャレンジタッチ*やご自宅のデバイスから自由に閲覧ができる。2021年4月時点で約65万人の小中高生に利用されており、年間の書籍貸出数がのべ3,500万冊と、知的好奇心を育むサービスとして多くのかたに利用いただいている。
*「進研ゼミ」が提供する学習専用タブレット
こだわりポイント
  • 読書を通じて「課題解決力」の素地となる知的好奇心と教養を広げたいという思いで、「本に興味を持つ・読んでもらう」ための一工夫を考え抜き、子どもたちに届ける
  • 子ども向け電子書籍サービスとして初のサブスクリプションモデルを実現させるなど、サービス立ち上げ時から、「読書体験(量・頻度・幅)」の成長を追求
  • 子どもたちへの思いの共有を通して、パートナーの出版社・映像提供会社と信頼関係を築いていく

読書を通して、「課題解決力」の素地を作りたい

サービスを立ち上げた背景
五木田
自分から課題を見つけ、自分で考え、それを他の人と協力して解決していく「課題解決力」がこれから必要になっていく中、何ができるのか。チームでの検討や有識者・保護者のかたへのインタビューなどを繰り返していました。その結論として、「課題解決力」を支える素地となるのは、教科学力は当然ですが、幅広い知識つまり教養と、学ぶことをおもしろいと感じる知的好奇心だと。そこから「まなびライブラリー」がスタートしています。
読書は、最も主体性が求められる行為だと思います。受け身ではなく、自分から読んでいくことが、自ら課題を見つけて解決していく力につながります。さらに、子どもに本を読んでほしいという保護者の声も多くいただいて、電子図書館のサービス開発に取り掛かりました。
※デザイン・内容・閲覧できる作品等は変わることがあります。
子どもたちに読書に興味をもってもらうための一工夫
五木田
サービス開発を進める中で大学の先生や小学校のベテランの先生に話を伺うと、「理念は正しいんだけど、まじめすぎる」と指摘をいただいていました。とある大学教授からは、「課題解決のきっかけは、違いに気づくこと」と助言をいただきました。違いというのは、例えば、大人にとっては当たり前だけれども、犬と猫の違いや、今日と昨日といった時間軸の違いなどです。そうした違い・ギャップに気づくことが、私たちが目指している課題解決力育成への一番の近道になると教えていただき、本を選ぶ際もその点を意識しています。
子どもたちとの距離が近づくよう、本の選び方や機能開発において試行錯誤を経て、今の「まなびライブラリー」に至っています。大人は、こういう本を読んでほしい・望ましいと考えがちですが、やっぱり、子どもたちが理屈抜きに手に取ってくれる本とは違うことがあります。手に取ってくれる本を起点にしてかないと、そもそも読書に興味を持ってもらえません。
和泉
読書が好きな子も、そうでない子も楽しめるライブラリーを目指しています。読み応えのある固めの作品もあれば、自分から読みたいと思えるような親しみやすいライトな作品も揃える。ラインナップを作る上で、気を付けていることです。さらに、有識者のかたのアドバイスも伺いながら、時代時代にあったお勧めの本も取り入れていくようにしています。
「学生時代、本を読んでいる友だちの話がおもしろかった。本を読むことで魅力的な人間になれると思う。」と話す五木田

「読書体験(量・頻度・幅)」の成長を追求し続ける

「まなびライブラリー」が大切にしていること
五木田
「まなびライブラリー」は「進研ゼミ」のサービスの1つです。教材というのは、利用する前後で必ず良い意味での変容がなされているべきだと考えています。そう考えた時に、「まなびライブラリー」も子どもたちにとってプラスの態度変容があってほしいと常に思っています。それが「読書体験の成長」です。
わかりやすい例を挙げると、「利用後の方が本を読む冊数が増えた」「利用する頻度が上がった・読書習慣が定着してきた」というものです。意外と忘れがちなのが、自分から進んで手に取らないジャンルへ広げられたか。そうした「読書の量・頻度・幅」を成長させられるためにできることを考え続けることは、「進研ゼミ」の図書館として、絶対に守るべきところです。
和泉
ジャンルを広げてもらうための具体的な取り組みの1つが、くじを引いて本に出会える“ブックぽん”というコーナーです。どうしても読書傾向は読み物が中心のため、自然科学などのジャンルを入れるように工夫をしています。他にも、本そのものは手に取りづらくても、どういう先生が書いているんだろうといった興味が本を読むきっかけになることもあるため、著者のインタビューや、著者への質問ができるコーナー等も企画をし、「読書体験の成長」に向けて、本に触れるきっかけをなるべく多く作るようにしています。
くじを引くと、いろいろなジャンルの中から本がでてくるコーナー「ブックぽん」(上段)や、診断によっておすすめの本を紹介するコーナー(下段)などできっかけを作っている
和泉
いろいろな電子図書のサービスがありますが、「まなびライブラリー」は読みたい本が貸し出し中で読めないということがありません。「進研ゼミ」会員の約190万人(2021年4月時点)のお子さまがいつでも「まなびライブリー」で読みたい本を読むことができます。読みたいと思った時にすぐ読める環境をつくることで、子どもたちの読書へ向かう気持ちを後押ししたいと思っています。
五木田
「まなびライブラリー」を立ち上げた当時は、電子図書館も普通の図書館と同様に、誰かが借りているとその本は借りられないモデルがまだまだ一般的で、サブスクリプション(定額読み放題)が出始めたというような時期でした。その中でも、全員がいつでも読める環境を実現したいと、「まなびライブラリー」ではマルチライセンス(同時に複数人が読める契約)を採用しました。子ども向け電子書籍サービスでの導入は「まなびライブラリー」が最初で、パートナーの出版社からは、子ども向け電子書籍サブスクリプションの原型になったと言っていただいています。

パートナーである出版社・映像提供会社との信頼関係は、子どもたちへの思いが起点

パートナーの出版社との関係性で大事にしていること
五木田
初めて出版社を訪問した時にお話しするのは、経済条件よりも先に「大義」です。内容は2つ。1つは、読書を通じて、これからの社会を生き抜く力を持った子どもたちを育てたいということ。もう1つは、子どもたちがそうした力を身に着けることで、世の中に良き市民が育っていく、ということです。出版社にとって大切なのは、未来の読書人を育てること。そのため、この2つの話に、ご賛同をいただいただくことが起点です。
和泉
「まなびライブラリー」から若年層の読者が生まれる・育つのが嬉しいと、出版社のかたがよくおっしゃってくださいます。本に寄せられた子どもたちの感想をお伝えし、「なるほど。小学生だとこういう本にこんな感想を持つんだな。」といったことの共有や、特集を組んだ時などは、著者の先生へも子どもたちの声をお届けしています。
出版社との共創・協業・連携の根底にあるもの
和泉
小学生から高校生に読んでほしい本の候補を出版社から頂き、1冊1冊内容を確認した上でお届けしています。それは、サービス発足からずっと続けています。
五木田
保護者のかたが一番気にされるのが、子どもにとって暴力的なシーンや性的なシーンに関するものです。保護者のかたや先生のご指導がない中で、子どもが1人で読んだ時に、発達段階として適さない本も中にはあります。今は、阿吽の呼吸で出版社のかたにも理解をいただけていますが、最初のころは難しい面もありました。
「掲載を見送りたい作品があると言われたが、あなたにとって文芸とは何なのか?」とある出版社の役員のかたから問われたこともあります。そのかたはこれまで数々の有名作家とお仕事をされてきたベテラン編集者でもありましたので、私から「文芸とは……」などとは恐れ多くて言えません。ただ、その時にお話したのは、「何百万人もの保護者のかたからお子さまをお預かりしています。保護者のかたに説明できないことはできません。」と。子どもたちと、受講いただいているご家族の信頼は、絶対に譲れません。
和泉
今では、出版社のかたから「『まなびライブラリー』にこの本はどうだろう」といったご提案をいただきます。子どもに本を読んでほしいという同じ気持ちがあるからこそ、互いに意見を交わしながら「まなびライブラリー」をお届けしています。

その子の人生・将来に関わる読書体験、
読書体験を人と共有する楽しさを届けていきたい

子どもたちから寄せられる嬉しい声
和泉
「まなびライブラリー」を利用してくれている子どもたちからは本への感想のほか、「本について、友だち・おうちの人と話した」と会話がつながっているケースや、「長い文章を読むのが苦じゃなくなった」など、いろいろな声が届きます。
五木田
「楽しかった」「本を読むのが好きになった」と読書への変化が見られることもすごいことなのですが、「将来を考えるようになった」「憧れの職業が見つかった」という声が寄せられた時は、単純にうれしいですし、気持ちが引き締まります。「小説を書きたくなった」という子も意外と多いんです。その子の人生・将来に関わる声が自然に出てくることが本当にうれしく思います。
今後さらに進化させていきたいこと
五木田
現在の「まなびライブラリー」では、利用者同士の対話や共有ができる場がありません。子どもが一人で楽しんで・役立てていくだけではなく、本を読んだ感想を他の子どもたちとも共有できる仕組みを作り、もっと一緒に楽しみ合い・役立て合い・学び合いながら、読書体験を高められる「まなびライブラリー」の実現に向けて、今年・来年は取り組んでいきます。
和泉
大人になって「まなびライブラリー」であんな楽しい本を読んだなと記憶に残るようなラインナップ、企画を実現していきたいと思っています。利用してくれている子どもたちからは、「普段読まない本を読んでみたらおもしろかった」「分厚い本が読めるようになった」という声、「学校のクラスで友だちと話して盛り上がった」という声が毎月届いています。
読書は、読む時間だけの話ではなく、読んでみてそこから話をしたり、振り返って気づくことがあったりするものだと思います。本を読んで人と共有する楽しさを感じてくれている声が絶えないよう、そういう体験につながる本を届けていきたいと思っています。
「本を読んで楽しかった子どものころの体験、喜びを多くの人に知ってほしい。」という和泉

撮影:デザインオフィス・キャン

(2021年12月取材)

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