いよいよスタート!自然とアートがもたらすウェルビーイングの研究とは
~ ベネッセ アートサイト直島 ~
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社会全体でウェルビーイングへの関心が高まるなか、個人によるものだけではなく、地域や職場、学校など、個人を取り巻く 「場」 によってもたらされるウェルビーイングにも注目が集まっています。
多様な人との対話を通じて、これからのウェルビーイングを考える 「ベネッセ ウェルビーイングLab(以下Lab)」 では、大学の研究者の皆様に協力する形で、「場のウェルビーイング」 を考えはじめています。
この記事では、現時点での研究概要や、準備が進められている現地の様子をご紹介します。
瀬戸内海の直島ではじまる、ウェルビーイング研究とは?
そもそも、「場」 のウェルビーイングとはどのようなことなのでしょうか?ウェルビーイングに関する研究の中では、街や職場、コミュニティなどの 「場」 がウェルビーイングを醸成させ、多様な人の状態も良いものにする、と言われてきたそうです。
たしかに、わたしたちはさまざまなシーンで 「場」 の影響を受けています。活気のある 「場」 にいると、自然にポジティブな発想ができますし、逆のことも起こります。これからのウェルビーイングを考えるLabでは、「場」 のウェルビーイングについても深めていきたいと考えました。
では、今回の研究の 「場」 として、なぜ直島で実施することになったのでしょうか?研究のリーダーである、京都大学・内田由紀子教授は、以前の取材の中でこのように語ってくれました。
「社会全体のウェルビーイングを達成するためには一人ひとりの多様なウェルビーイングを認め合い、包摂する “場” が必要です。場とは、学校や職場といったコミュニティーに当たりますが、地域もその一例です。私はこれまで、複数の地域でフィールドワークを行い、場のウェルビーイングにアプローチしてきました。そして今回、島という地理的特性と、ベネッセが続けてきた『ベネッセアートサイト直島』の活動に着目し、直島での研究をスタートしました。(中略)直島では、島の自然や文化との調和が図られており、訪れる人に発見やウェルビーイングをもたらしてくれます。そうした力が地域住民のウェルビーイングにどう作用するのか、その両方を探りたいと考えています。(2024.5.22 AMP記事より)」
この研究の目指すところは、この地域におけるウェルビーイングの要因を明らかにすることで、他の地域にも活用することができるモデルを作ること。どのような結果が見えてくるのか、楽しみです。
大学の研究チームによって提案された3つの調査
今回の研究の場となる直島は、岡山と香川県の両方からアクセスすることができる、人口 3,000人ほどの小さな島です。ここでは、ベネッセと公益財団法人福武財団によって、30年以上に渡りアート活動 「ベネッセ アートサイト直島」 を展開し、自然の美しさとアート、古民家などの伝統的環境と現代的な環境など、一人ひとりの 「よく生きる」 を考える、時間と空間を提供する 「場」 を目指しています。
「よく生きる」 は、英語で言えばWell-being。このような場所にあるコミュニティに住むことや、この場所を訪れることで、人のウェルビーイングはどのように最適化されるのでしょうか。今回の研究の目的を、<個人とコミュニティの関係の定量化・言語化(数値で表すこと・言葉で表すこと)を行い、「場」 のウェルビーイングについて明らかにしていくこと>と設定し、研究の準備が進められていきました。
具体的な方法としては、このコミュニティに暮らす直島住民や、この場所を訪れる訪問者の方を対象に、アンケート調査やスマートフォンアプリを用いた調査、さらにはセンサーを活用して人の動きを調べる人流調査などを実施。直島で実現されているウェルビーイングや島における生きがい、さらには島を訪れる人たちの感情経験についても研究していくことに決まりました。3つの調査についてご紹介します。
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- 1)住民調査
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まず、住民調査の対象は、直島の住民(約1,500世帯)です。地域社会における暮らしとアートの関わり、人と人とのつながりについて調べるために、地域社会での暮らしや普段の意識・行動についての質問にアンケート形式で回答してもらいます。
当初は、各世帯に配布されているタブレットでのアンケートを考えていましたが、ご高齢の住民も多くいらっしゃることから、紙でもアンケートを実施することになりました。
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- 2)訪問者調査
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次に、観光などで島を訪れた人を対象とした調査です。訪問者が、どの場所で、どのようなことを感じたかを調査するために、LINEアプリを独自に開発。LINEでお友達登録をしてもらい、「直島で見つけた推しの場所」 や 「推しのポイント・感想」 などの感情体験を自由に投稿してもらいます。
アプリの告知方法としては、島に設置されているサイネージ(案内などを表示するデジタルディスプレイ)や、宿泊施設に置かせて頂くチラシをご用意。現地での視察時に直島には海外からの訪問者も多いことを実感し、すぐにチラシに裏面に英語版を入れるなど、できるだけ多くの人に知ってもらえる工夫を重ねています。
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- 3)人流調査
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こちらも島を訪れた人を対象にした調査です。いつ、どれぐらいの人が移動したのか、島の主要な場所にセンサーを設置しその通信信号を追うことで、人の流れを把握しようと考えています。直島町役場の方にもご協力を頂きながら、島の主要な場所にセンサーを設置していくことにしました。
京都・奈良、大阪、東京、直島などそれぞれの場所から、関係者がオンラインで集まり、何度も議論を重ねて調査の準備が進んでいきました。
ゼミ生の皆さんとともに、「人流調査」 の準備が進行中
2024年11月、人流調査のセンサー設置を担当する大阪公立大学大学院 情報学研究科の藤本准教授とゼミ生3名、医療科学研究所の研究員1名とともに、岡山の宇野港からフェリ―で直島へ。フェリーが港に到着し、直島を象徴する赤いカボチャのオブジェを右手に見ながら、島への第1歩を踏み出しました。まずは、宮浦港の待合室で荷物を広げ、さっそくセンサーの設置準備にとりかかります。
センサーの設定には想定以上の時間がかかりました。大学の研究室で準備していたときには発生しなかったことが、次々と起こったそうです。1つ目のセンサー設置の段階で2時間近くかかり、設置場所によっては地面に座り込んで…、気が付けば日が沈み、フェリーの時間が近づいていました。1日目、強制終了です。
その夜、学生の皆さんはホテルで作戦会議・改良を行ったそうです。準備していた段階では予想もできなかったことに対し、その原因や対応策を様々に考え、いざ2日目に挑みます。
2日目はより機動的に動けるよう、<コード設定>と<センサー設置>の2チームに分けて、フェリーの中でスケジュールも組みなおしました。合流するタイミングでは、一気に情報交換を行います。
ちなみに、センサーのコード設定に取り組む学生さんから聞こえてくる会話は…、何を話しているのか全く分かりません。( 「ログインして。デバイスのIP見えてる?」 「えっと、クーロンタブ?これ、コードの実行は確認できてる?」 「ん?ESPにデータ入ってる?送りなおす?データは入っているよね?」 ・・・)
チームを率いる、大阪公立大学大学院 情報学研究科の藤本まなと准教授にお話を伺いました。
今回は、学生の方が頑張ってくれていますね。
藤本先生: 「今回、3人のゼミ生に参加してもらっています。教育の一環として、社会を体験させてあげたいなと思っているんです。」
どのような経験ができているのでしょうか?
藤本先生: 「例えば、夜、ホテルで改良して、よりよいものにしてくれた。その結果、2日目からは時間をまくことで余裕ができ、エラーが出たときにも対処の時間がつくれた。こうゆうことって、現場で一緒にやらないと分からないんで。いい経験しているなと思います。」
藤本先生: 「学生を見ていると、とても面白いんですよ。学生に教えられることも多い。先輩だって、分からんことがあったら後輩に聞いて、ってよく言ってるんです。(教授も学生も、先輩も後輩も)両方向に矢印がある。両方向に聞いているんで、ええことやなーって(笑)」
島では、作業が終わらなくてもフェリーの時間になれば島を離れるしかありません。今日できなかったことをどうすればよいか、先輩も後輩も、教員も一緒になって話し合い、試してみる。島の美術館のスタッフや、直島町役場の方にも、分からないことを相談して次に進む。そうした体験のひとつ一つが、社会に出る前の貴重な体験になっているのかもしれません。
今回の3日間の訪問で、センサー設置に対する新たな課題も見つかり、一部のセンサーでデータ取得を開始しながら、後日、もう一度トライすることが決定しました。
直島でのウェルビーイング研究のこれから
直島での研究は、まだ始まったばかり。現地では想定外のことが起こりますが、たくさんの方からアドバイスを頂いたり、お力をお借りして準備が進められています。
初年度となる今年、調査からはどのような結果や知見が見えてくるのでしょうか。2025年には、瀬戸内国際芸術祭が開催され、通常期よりも来島者が増えることとなるでしょう。そこで、変化はあるのでしょうか。
この後は、本年度の調査を通じて感じられたことなどを、内田先生に取材をさせていただき、記事としてご紹介する予定です。これからのウェルビーイングを考えるLabの活動にご期待ください。
(この記事は、2024年12月時点での情報となります)