Benesse 「よく生きる」

マジ神とテクノロジーで
介護の質を向上

介護の匠達のノウハウをAI化

データソリューション部
介護ソリューション課 課長

宮下 ゆかり

Yukari Miyashita

データソリューション部
介護ソリューション課 課長

宮下 ゆかり

Yukari Miyashita

ベネッセの介護事業には、「認知症ケア」「安全管理と事故の再発防止」「介護技術」の3つの分野で高い専門性と実践力を認定された「マジ神」と呼ばれる社内資格を持つスタッフが100名以上いる。その介護の匠達の介護ノウハウをデータ化し、テクノロジーにより暗黙知を具現化していくことで、ご入居者さまのQOL向上と介護スタッフ全体のスキルをアップさせるためのAI化が進んでいる。その「マジ神AI」を企画・開発にあたる宮下ゆかりに話を聞いた。

Mission

データサイエンティストとしての能力を世のために使いたい。
その想いがベネッセ、そして介護業界との出会いにつながった。

現在の業務を担当されることになった経緯や想いをお聞かせいただけますか?

前職はコンサルティング会社で、そこが社会人としてのスタートでした。システム開発や、データ分析、市場調査などによってお客さま企業のご支援をするプロジェクトを担当していました。自分が成長できるかどうかを軸に決めた会社でしたが、10年以上キャリアを積んで、欲が出たといいますか、自分だけでなく、もっと世のため人のために働きたい、それを実感できる会社で働きたいと思うようになり、2019年12月にベネッセコーポレーションに入社しました。

当初、進研ゼミ小学講座「チャレンジタッチ」の活用データ分析と施策提案を行っていましたが、2020年の4月からDXコンサル室のメンバーとして、介護・保育事業を行うベネッセスタイルケアで介護記録データの利活用支援を担当することになりました。最初は、手探り状態からのプロジェクト推進でしたが、ベネッセはデータに誠実な会社で、データサイエンティストの私が提供する分析を真摯に受け止め改善につなげる姿勢があり、サービスの質を高めることにとても積極的でした。ですから自分がグループの介護事業、ひいては国内介護業界の役に立てるなら、何でも具現化していこうという気持ちでした。

現在の業務内容と、ご自身の役割を教えてください。

DXコンサル室に入った2020年度は、ちょうどコロナが広まった時期でしたので「感染症予測」など、データ分析でできることの見える化と、BIツール(※)の導入による現場へのフィードバックシステムの構築を行いました。続く2021年度はAI内製化を目標に、クラウドを活用した外部データ連携や機械学習実装を含む介護業界向けソリューション「マジ神AI」の開発を行っています。この開発には、ベネッセホールディングスのデータサイエンティスト、ベネッセインフォシェルのインフラチーム、アプリチーム、ベネッセスタイルケアの事業側担当者と、オールベネッセ体制で多くのメンバーが携わっています。こうした多彩な能力をまとめ、ひとつのソリューションを作り上げるべく、開発全体のリーディングを担当しています。

※BIツール…Business Intelligence(ビジネスインテリジェンス)ツール。企業が持つデータを抽出・加工して分析しやすいように見える化し、経営や業務に役立てるツール。

Solution

“介護の匠”の高スキルやノウハウをすべての介護人財に
介護向けAIソリューション「マジ神AI」を開発

介護事業側から求められていた開発課題について教えてください。

「お客さまのQOL向上」と「介護人財の育成」が課題でした。介護というのはケアを提供する側も、される側も個人差が大きいんですね。提供する側はスキルや知識に差がありますし、される側にはそれぞれ介護の必要度や事情に大きな幅があります。お客さまのQOL向上につながるよいケアをするスタッフというのは、介護や薬、病気などに関する豊富な知識と、経験の積み重ねから、相手に応じたケアを高いレベルで提供できるんです。そうした介護の匠の知識やノウハウを言語化、提供化して、他の介護人財の専門性を高めることで、スキルの差異による介護サービス品質のばらつきをなくしたい。そうして専門性を高めることが、スタッフ自身の満足度につながり、定着率を上げることにも好影響を与えられるはずだ、との認識がありました。

その課題へのソリューションとしての「マジ神AI」とはどんなものですか?

「マジ神」とは、ベネッセスタイルケア独自の社内資格で、「認知症ケア」「安全管理と事故の再発防止」「介護技術」の観点で高いスキルを持つ介護の匠のことを指します。高いレベルが求められる卓越した介護技術や気づき・仮説の精度を、マジ神でないスタッフも再現できるよう仕組化することを目的としたのが「マジ神AI」です。

現在は
1. 業務で必ず使用する記録システム内に、データから導かれる気づきを埋め込んでフィードバックする基盤の構築
2. センサデータを含む、インプットデータの拡張
3. マジ神の気づきのAI化・可視化
という3点をテーマに進めています。

「マジ神AI」によって現場にどんな効果や改善が表れましたか?

「マジ神AI」は、2022年3月にオープンした「グランダ四谷」など、一部の高齢者向けホームで導入されたばかりですが、ご入居者さまの睡眠時間が増えるといったような生活の質向上や、身体機能の改善、などの結果が見られています。

開発過程において、いくつかの既存拠点でセンサーを設置しデータ可視化の仕組みを導入しました。それと並行してマジ神のケアアドバイスを付与するという手順で進めましたが、そうするといろいろ見えてくるんです。たとえば睡眠。これまで多くの介護施設での睡眠の計り方は巡視による目視確認が基本ですが、睡眠センサーを入れると、寝ているように見えたけれど、実は全然寝付いていない、ベッドの上で寝返りをうっているだけという方も見つかる。口頭でコミュニケーションが取ることが難しい介護度が重い方の場合、誰もそれが分からないままになってしまうこともあるんですね。そういった時に、マジ神の視点が入ると、寝姿勢を改善してみては?と言うアドバイスがスタッフに出される。そこで、その方の寝姿勢を整えてみると──素人目にはほとんど違いがないように見える改善でしたが──すやすやと眠られるようになる。それはちゃんと睡眠センサーのデータにも現れる。こうしたことがあると介護現場のスタッフも、よりデータに注目してくれるようになりますし、成果が出ると、やっぱりうれしくてモチベーションが保てるのでしょう、職員の定着率の向上にもつながる。こうした積み重ねが介護サービスのクオリティ向上につながると思いますし、データサイエンティストとしても、データが人のQOL向上に活かされるやりがいを感じます。

Foresight

テクノロジーによって人の生活を豊かにしていくという
DXの本来の姿を、
介護業界の課題解決を通して実現していきたい。

今後の仕事におけるチャレンジを教えてください。

「マジ神AI」の目標は「介護スタッフさまの役に立ち、実際のご入居者さまのQOLが改善する」ソリューションの構築なので、技術先行になりすぎることなく、現場の納得度や浸透度にこだわって開発を進めていきたいと思います。とはいえ、それを支える「マジ神の気づきをAI化する」部分もまだ発展途上なので、モデル精度向上へのチャレンジもしっかりと続けていきたいですね。

介護のサービス品質向上と人財の確保は、高齢化が進む日本はもとより、世界の課題とすら言えます。このプロジェクトが、介護業界の課題解決の一助となる取り組みになるよう、しっかり育てていきたいと思います。

今回の事例で企業理念「よく生きる」を実践できたと感じることはありましたか?

DXは、ビジネスの文脈において「生産性向上」に主眼がおかれことも多く、ともするとコスト削減・人員削減に目が向きがちかと思います。生産性の向上は本当に重要ではありますが、DXはそれだけでなく、DXの本来の定義にあるべき「人を幸せにする」こともできるのだと実感しています。まったく話すことができなかったご入居者さまが「おはよう」とおっしゃったこと、現場のスタッフから「ケアを変えてみました。明日、データを見るのが楽しみです」と言ってもらえたこと。DXが誰かの人生を変え、仕事にやりがいを生み出す糧になることもある。そう信じられる瞬間でした。そして、誰かの役に立つ仕事がしたい、誰かの幸せに貢献したい、という自分自身の気持ちも叶えられました。小さな1歩ですが、これが「よく生きる」の具現化そのものだったなと感じています。

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