対話から導く、子どものウェルビーイングのための実践法
この記事では、「ベネッセ ウェルビーイングLab(以下、ラボ)」 が2023年2月に開催したオンラインフォーラム※の後半で、登壇者によるパネルディスカッションを通じひも解かれた、子どものウェルビーイングのために大切なことを紹介していく。
※ウェルビーイングの専門家、NPO、企業が一緒に 「子どもとの関わり方」 を考えたオンラインフォーラム。
ベネッセ ウェルビーイングLab(以下、ラボ)」 所長の岡田晴奈氏、日本におけるウェルビーイング研究の第一人者である石川善樹氏(公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事)、放課後の居場所づくりを通じた子どものウェルビーイングのための実践を続ける平岩国泰氏(特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール 代表理事)が登壇した。冒頭の画像はフォーラム開催当日の登壇者と関係者の集合写真。
それぞれの視点から 「子どものウェルビーイング」 を語らいあったフォーラム前半の記事はこちら。
子どもの自己肯定感を高めるためにできること
フォーラムの後半では、パネルディスカッションを実施。ベネッセ教育総合研究所の庄子寛之氏がファシリテーターを務める形で、参加者から寄せられた質問に対し、登壇者たちによる活発な意見交換が行われた。まず取り上げられたテーマは、「子どもの自己肯定感を高めるために、親ができること」 。
平岩氏 「子どもにとっての大切な居場所が家庭です。家庭の場合、外での活動や成績の良しあしとは関係なく、『あなたは唯一無二の存在』だと、お子さんに伝えることが何より重要になります。とはいえ子どもたちは親に喜んでほしいと感じています。いいところを見てほしい一方で、誰かと比べられたくはないという気持ちもあります。そうした気持ちを理解した上で『斜め後ろから見守る』ように接することが、自己肯定感の基本になるのではないでしょうか」
岡田氏 「外の世界では、どうしても比較や評価を受けることが多いので、家庭でもそうしたことがあると本当に生きづらくなってしまうのでしょう。まずは家庭の中で、お子さんの思いを受け止めて、『あなたがいて良かった』と心から伝えてあげることが、大切なのだと気付かされます」
石川氏 「家庭の問題で難しいのが、子どもと親が違うタイプの人間だということがある点です。親にとっての安心や喜びが、必ずしも子どもにとっても同様だとは限りません。子どものタイプを見極めることも重要になるでしょう。お子さんと似たタイプの大人に第三者として協力してもらい、その人に自己肯定感を高めてもらうのも、一つの方法かもしれません」
また、不登校の問題についても議題に上がった。不登校の子どもが増える中で、何を支援することが適切なのだろうか。
岡田氏 「昔は学校へ行くことが第一義であり、不登校であることを親も子も苦しんでいました。今は、子ども一人一人の心の変化や状況を理解しようという機運が以前よりは高まっているように思います。一方で、子ども自身は心の変化を明確に言語化することが難しいなどの側面もあります。どうしても行きたくないということがあれば、それを受け入れて、つらい状況など場合によっては逃げるという選択を肯定することがあっていいのではないでしょうか。何よりも親から見守られている、という安心感が子どもには重要なことだと思います」
石川氏 「そもそも人はどのように学んでいくのかと考えたとき、先輩の存在は大きいはず。例えば同じように不登校でも、生き生きとしている別の子どもを見せてあげると、自分も受け入れられるかもしれません。不登校に限らず、さまざまな生き方をする多様な人と出会わせてあげることも、有効だと思います」
平岩氏 「社会全体で不登校が増えている現実は受け止めなければいけないと思います。これまで多くの不登校のお子さんのケースを見聞きしてきましたが、親子で話をするだけで解決することはあまりなく、そうした場合に “第三者の力を借りる” ことも必要だと思います」
大人もウェルビーイングを感じながら、子どもを見守り寄り添う
続いての質問は、「親や大人、そして子どもに関わる教員のウェルビーイングを高めるには?」 。 ラボで実施したワークショップでも 「親もしっかりと発散していかなきゃ」 といった声が上がっていたが、子どものウェルビーイングを実現させるためには、大人側のウェルビーイングも充実させる必要があるのだろう。
石川氏 「大人のウェルビーイングも子どもと同じで、いろいろな場所が必要です。私は “健全な多重人格” と呼んでいるのですが、例えば教員が学校を出ても四六時中 “先生” であることを求められると、身が持たないと思うんです。何者かである自分とそうでない自分、いろんなバリエーションがあって、いろんな自分でいられることが大事だといわれています」
庄子氏 「私は公立小学校で教員をした経験がありますが、朝早くから勤務し、学校を出ると夜遅くになることや、土日も地域の行事があったりと、教員のウェルビーイングを下げる要因を日々感じていました。教員は悩みが多く、業務も多忙なので、“先生以外” になる時間も必要ですね」
平岩氏 「子どもが大人の思う通りにならないのは当たり前のことですので、それ自体に悩む時間はもったいないのかもしれませんね。親や教員も、まずはそうした悩みを一度切り離し、子どもとはまったく異なる人と出会ってみる。そして多様な視点で再び子どもを眺めてみると、何か面白い発見が生まれる気がします。仕事と家庭に加え、もう一つの場所であるサードプレイスを用意するとよいのではないでしょうか」
岡田氏 「子どもと大人の違いは時間軸。全ての大人は子ども時代を通過してきて、その体験をベースに人生を歩んできています。その中で『こうなりたいな』『これが好きだな』と思ったことをそれぞれに見つけてきたはずなので、それを誰かに褒められなくても、自分なりに大切にしていけばいいのではないでしょうか。そして、子どもが夢中で取り組んでいる様子も見ながら、お互いにそういう瞬間を大切にしてもらえればと思います」
幸せを意識しながら日々を過ごすと、よりよい生き方に出会える
イベントでは最後に、子どものウェルビーイングに関する登壇者の考えが、参加者に対するメッセージとして発信された。
平岩氏 「子どものために大人のウェルビーイングが大切になるという考えは、ポイントになると感じました。大人たちがいい顔をしていれば、子どもも『社会って楽しいんだな』と希望を抱けるようになります。大人がウェルビーイングを大事にして楽しみながら、子どものウェルビーイングにアプローチしていくのがいいのではないでしょうか」
石川氏 「安心・安全が好きな人もいれば、面白いことが好きな人もいます。重要なのは、自分がよかれと思ったことが、相手にはストレスになるケースもあるのだということ。主観的なウェルビーイングとはまさに多様性。大人も子どもも、それを一つ一つ理解しながら、学ぶしかないんだと思います」
岡田氏 「今日という機会を通じて、私自身もさまざまな気付きを得られました。大人も子どもも、ウェルビーイングや幸せというものを少し意識しながら生きることで、よりよい生き方へとつながる可能性を秘めていると思います。今日得た知見を実践し、周りの人の幸せを意識しながら、皆さんには自分自身の幸せも実現してほしいと感じます。」
重要なのは子どもたちがそれぞれの主観的なウェルビーイングに対し、一人一人の特性や気質に寄り添いながら、大人自身もウェルビーイングを意識して実践することで、毎日を積み重ねていくことなのだろう。
ラボでは、今後も子どものウェルビーイングをテーマとしながら、さまざまな方々との対話の機会や活動による気付きを積み上げ、発信をしていく。
(2024.3.5 AMP掲載記事より転載)
※記事内の肩書などは掲載当時のものです。